ⓔコラム10-1-11 分子生物学による病態解明

 生物を分子のレベルでひもとく分子生物学によって呼吸器疾患の病態解明が進んできている.遺伝物質であるDNAの二重らせん構造は1953年に提唱され,ヒトのゲノムDNAの全塩基配列を解析するプロジェクトであるヒトゲノム計画は2003年に完了した.ヒトのゲノムは30億塩基対あり,全体の1.5%を占める4500万塩基対が約2万2000個の遺伝子として蛋白質をつくる部分であるエキソンを構成している.過去にはSanger法によって10年以上も要したすべてのゲノム領域を調べる全ゲノム検査 (whole genome sequencing) は,高速高精度の性能をもつ次世代シークエンサー (next–generation sequencing: NGS) によって数日で可能になっている.すべての翻訳される遺伝子領域の検査を行う全エキソン検査 (whole exome sequencing) もNGSというDNAシークエンス技術の進歩により身近なものになってきている.

 DNA配列には当然のことながら個人差があり,標準的な配列と異なった配列は多型とよばれる.こうした遺伝子多型の解析はさまざまな病気のリスクについての理解を深めてきている.一方,遺伝性 (家族性) の疾患研究から,多くは連鎖解析といった遺伝統計学的解析やNGSによるDNAシークエンス技術により,単一遺伝子疾患の原因解明が進んできている.また,遺伝子の病気である癌においては,肺癌でも近年癌を引き起こすドライバー遺伝子変異がいくつか同定され,それらの変異分子に対する分子標的薬は日常臨床に応用されている.

 一方,細胞や臓器レベルでの研究の進展も著しく,iPS細胞技術や再生医療研究の進歩は21世紀の呼吸器疾患の診断や治療として新しい可能性を提示している.

〔鈴木拓児〕