ⓔコラム10-5-2 薬剤性肺炎診断へのアプローチ

 薬剤性肺炎の診断は肺炎そのものの診断と原因薬剤の同定という2つの側面がある.ここでは,それぞれについて問題点を含めて詳述する.

薬剤性肺炎の診断

 あらゆるすべての薬剤あるいは健康食品が肺障害を起こしうることを念頭に,まず薬剤による肺炎を疑うことが重要である.薬剤性肺炎そのものの診断は,新たな肺炎が出現し,薬剤投与と時間的関連 (投与で発症し,中止により改善するなど) を有し,ほかの原因を除外できることから得られる.

ⅰ) 肺炎の出現: 原因不明の肺障害を呈している患者を診るときには,つねに薬剤性肺炎を念頭においておく必要がある1).好酸球性肺炎の場合は薬剤を疑うことが多いが,ほかに肺水腫,過敏性肺臓炎,びまん性肺胞傷害 (DAD),非特異的間質性肺炎,器質化肺炎など多彩なパターンを呈することが薬との関連を疑ううえで問題となる1,2)

 薬剤が肺炎をきたしやすいかどうかの情報は,最新の添付文書を参照しておくことが必須となる.最高裁の判例でも,添付文書に記載された使用上の注意に,特段の理由がないかぎり従う必要があり,従わず事故が発生した場合には過失が推定される,薬剤の副作用については常に念頭において治療に当たるべきであり,可能なかぎり最新の情報を収集する義務がある,としている.添付文書を参照すること,薬剤の最新の情報に接することは薬剤性肺炎の診断にも重要である.情報検索は,医薬品医療機器総合機構 (http://www.info.pmda.go.jp/) や,pneumotox (http://www.pneumotox.com/) などのサイトが有用である.

 図10-5-13に示すように,肺炎のパターンとKL–6やSP–Dといった血清マーカーが関連し有用である3).SP–AはKL–6やSP–Dが上昇しない病態でも異常を呈するなど感度は高いが特異度は低いため,薬剤性肺炎の診断においては有用性が低い.KL–6やSP–Dの上昇は薬剤性肺炎の病型により異なり,KL–6は予後が比較的よくないDADや線維化を伴うような非特異的間質性肺炎では上昇することが多く,肺水腫,過敏性肺臓炎,好酸球性肺炎,器質化肺炎といった障害を残すことなく治癒するものでは経過を通して上昇しないことが多い3)

ⅱ) 時間的関連: 薬剤投与により出現し,中止により軽快し,偶然に行われた再投与により再現されるような時間的関連が明白な場合は診断が容易である.発症と薬剤投与の関係は,過敏反応であれば,通常1~3カ月以内で感作時間と考えられる潜時があるのがふつうである.しかし,毒性に基づくものなどでは当然,より短期間で起こる場合もあるし,一方では,小児期のニトロソウレア治療の結果,17年後に肺障害が明らかになった例も報告されている.メトトレキサート (methotrexate: MTX) による急性の間質性肺炎は通常治療開始2年以内に起こるが,投与中止1カ月後に生じた例も報告されている.このように,時間的関係は単純なものではない点に留意する必要がある.

ⅲ) 他疾患の除外: 関節リウマチや炎症性腸疾患患者などは原疾患の病態として肺障害をきたす場合があり,薬剤性肺障害との鑑別が容易でない場合がある.原疾患の悪化に基づいて肺障害の増悪が起こるため,原疾患の増悪や再発がないことを薬剤性肺炎診断の条件に加えた方がよいかもしれない.薬剤が免疫抑制作用を有する場合は種々の日和見感染症との鑑別が重要になる.例えば,関節リウマチ患者では低用量MTXが頻用されるが,このような場合にMTXの薬剤性肺炎の診断は,先のリウマチ性肺疾患のほかに日和見感染症の除外が必須である.日和見感染症の除外のためには気管支肺胞洗浄や経気管支肺生検が必要であることも多い.

原因薬剤の同定

ⅰ) 薬剤摂取歴: 薬剤性肺炎を起こしうることが知られている薬剤 (ゲフィチニブやレフルノミドなど) を単剤で投与し,その経過観察中に新たな肺炎を呈した場合は診断が容易である.しかし,このように単剤投与で時間関係が明白であれば診断は容易であるが,実臨床では多剤併用例が多く,その服薬歴を十分に明確にしえないことも多い.薬剤の相互作用や,毒性の相乗作用である場合もあり,単純には同定できない.

 時間関係が明瞭でない場合,例えばシクロホスファミドのように薬剤性肺障害がまれで,数年の後発症することが報告されているような薬剤の場合,その同定は困難である.起因薬剤を同定するために,以下の生体内 (皮膚試験や誘発試験) あるいは試験管内試験を参考にすることがある.

ⅱ) 生体内 (in vivo) 試験: 皮膚試験であるパッチテストは接触皮膚炎の検査として行われることが多いが,原因薬剤の同定に使用される場合がある.薬剤による感作があれば発赤あるいは水疱が出現することもある.検査に先立って,健常者の皮膚を用いて,薬剤の皮膚刺激性の確認が必要である.理論的に,代謝産物が原因である場合や皮膚透過性の乏しい薬剤は偽陰性となる.感度は50%をこえる報告もあるが一般にかなり低いとされ,標準的な施行方法も確立されておらず,施行には十分な経験を要するため,あまり行われていない.

 プリックテストや皮内反応はⅠ型過敏反応 (アレルギー) で有効とされ,アナフィラキシーやじんま疹などの合併 (同一の薬剤によるものかどうかは考慮する必要がある) がないかぎり,薬剤性肺炎に本法は用いない.

 起因薬剤の確定のためにチャレンジテスト (薬剤誘発試験.drug provocation test: DPT),すなわち薬剤の再投与による病態の再現が科学的には有用であると考えられる.しかし,死亡例の報告もあり,倫理的に問題があり,European Network for Drug Allergyのposition paperによれば,薬剤性肺炎に対するDPTは推奨されない,または禁忌に相当する4).科学的研究目的すなわち将来のほかの患者のために行う場合は,まず各施設の倫理委員会での承認が必要で,施行に当たっては,以下に述べる点を考慮し,十分なインフォームドコンセントが必須である.

 危険性と有益性をよく考慮し,ほかの方法がないときに考慮されるべきで,将来の使用が必要でない薬剤は誘発試験を行うべきでない.また,妊婦や感染症やコントロール不良の喘息,心臓,肝臓,腎臓の機能が低下している場合も施行すべきでない.施行時期としては,イベントから薬剤の半減期の5倍以上の時間が経過,一般には4週以上経ってから行う.少量から行い,DPTの潜在的な危険性は全身に及ぶものであり,バイタルサインのモニタリングを行いながら,プラセボを用いた単盲検 (心理的影響が危惧される場合は二重盲検) を行う.

 ただし,DPT結果が陰性だからといって将来の再投与が完全に安全であるということを保障するものではなく,逆に,陽性結果は生涯にわたる過敏反応を意味するものでもない.また,原因薬剤であっても再投与で同じ反応が起こるとは限らない.MTXやサラゾスルファピリジンなどでは,再投与でも発症しない場合がよく知られている.

ⅲ) 試験管内の検査: 安全性の面ですぐれているが,特異抗体や抗原反応性Tリンパ球の存在は感作されていることを意味するものであり,必ずしも原因であることを意味しないことは,過敏性肺炎などで証明されているところである.しかし,薬剤に感作されていることは重要な傍証であり,またさらに共通抗原性に基づいた反応を検出できる可能性があり,臨床的に有用となる可能性がある.

 薬剤によっては特異的IgGやIgEなど特異的免疫グロブリンの検出が可能である.特殊な研究的検査と位置づけられ,有用性はよく検討されていない.筆者らの検討では,特にある種の抗菌薬 (セフォチアム) は蛋白と結合させることなく容易に固相化できるため,酵素結合免疫結合吸着測定法 (エライザ法.enzyme–linked immunosorbent assay: ELISA) の経験があれば,本薬剤あるいはその側鎖に関するかぎり検出は比較的容易である5)

 薬剤リンパ球刺激試験 (drug–induced lymphocyte stimulation test: DLST) は,末梢血から単核球 (リンパ球を多く含む) を分離し,薬剤を添加し,その増殖反応をみるもので,薬剤反応性の (薬剤に感作された) リンパ球の存在をin vitroで明らかにする検査である.薬剤反応性クローンの存在から,確かにT細胞受容体を介して薬剤に反応するT細胞が存在することが明らかになっている6)

 感作T細胞の反応で最も頻用されるのは3H–thymidine (トリチウム–サイミジン) のDNAへの取り込み (すなわちDNA合成) を,定量的に放射線量を測定 (count per minute: cpm) することにより判定する方法である.本法では2×104個に1個の感作T細胞が存在すれば検出できるとされている.方法論的に統一されたものはないが,自己血清,AB血清あるいはFCS添加培養液で,通常5日間の培養が行われていることが多い.

 PHA (phytohemagglutinin) など陽性コントロールを必ず設け,薬剤添加時のcpmを無添加コントロールのcpmで除した値をstimulation index (SI) 値として評価する.SI値の陽性カットオフ値は1.8~3.0以上を陽性とすることが多い.また,薬剤により異なる基準値を設定した方がよいともいわれる.SI値に加えて薬剤添加時のcpmが1000をこえていることを条件とする場合もある.薬剤は培養液への溶解性を確認しつつ,3~4濃度を設けることが重要であり,多くの場合用量依存的な関係はなく,ある濃度でのみ反応が認められる.また,薬物療法が結果に影響することも考えられる.ステロイドの使用は循環血液中のリンパ球を減少させるため,単核球分画のリンパ球数を減少させる.リンパ球のサイトカイン産生も抑制することから,プレドニゾロン10 mg/日以下の患者でのみ検討する施設がある6)

 本検査も研究的検査に位置づけられるべきものであり,検査センターでの施行結果には注意を要する.検査センターによって陽性率は大きく異なるとの報告がある.偽陽性は特にバンコマイシン,造影剤,漢方薬,5–FU製剤,MTX,非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) などでしばしば認められ,これらの薬剤については患者血液のみで行ったDLSTの結果が陽性であっても起因薬剤と判断してはならない.

 漢方薬はリンパ球を非特異的に刺激する作用があるものが多い.また,MTXのDLSTは,健常者やMTX未投与の患者でも1/3程度でSI値が2以上のことがある.また,ティーエスワンでは健常者でもDLSTが陽性となる場合も多いとの報告がある.MTXや5–FUといった薬剤では,細胞内のサルベージ経路を介したチミジンの取り込み亢進により偽陽性が生じる.また,NSAIDsでは,プロスタグランジンE2(prostaglandin E2: PGE2) の産生抑制を介して増殖を促進する場合がある.偽陰性は抗癌薬など細胞毒性がある薬剤で認められる.いずれにしても,健常者対照を数名置くことは,偽陽性や偽陰性の科学的判断に必要である.

〔横山彰仁〕

■文献

  1. 日本呼吸器学会薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第2版作成委員会:薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第2版,メディカルビュー社,2018.

  2. 横山彰仁:薬剤性肺疾患 診断へのアプローチ.日本内科学会雑誌,2007; 96: 1097–1103.

  3. Ohnishi H, Yokoyama A, et al: Circulating KL–6 levels in patients with drug-induced pneumonitis. Thorax, 2003; 58: 872–875.

  4. Aberer W, Bircher A, et al: Drug provocation testing in the diagnosis of drug hypersensitivity reactions: general considerations. Allergy, 2003; 58: 854–863.

  5. Yokoyama A, Kohno N, et al: Detection of serum IgE antibody directed to aminothiazole using immobilized cephalosporins without protein conjugation. Allergol Int, 1999; 4: 303–308.

  6. Pichler WJ, Tilch J: The lymphocyte transformation test in the diagnosis of drug hypersensitivity. Allergy, 2004; 59: 809–820.