ⓔコラム11-3-10 食道・胃静脈瘤の血行動態

 食道静脈瘤の発生に関与する静脈は,おもに左胃,後胃,短胃静脈などであり,これらを供血路として食道静脈瘤を逆流上行し,奇静脈や半奇静脈を介して上大静脈へと交通している.また,胃上部のいわゆるhyperdynamic stateによる左胃動脈血の流入とこれに伴う胃上部の粘膜下静脈の内圧上昇が起こり,この血流が食道・胃移行部を経て食道粘膜下静脈,粘膜固有静脈へと流入することが食道静脈瘤の形成に関与している.

 食道胃接合部から下部食道にかけ約4 cm前後にわたり柵状血管 (palisade vein,すだれ様静脈) とよばれる特異な血管構築がある.供血路からの血液は最終的にこの柵状血管を経て食道静脈瘤へと供血される.この柵状血管はその約80%が粘膜固有層に存在し,門脈高圧と血流の緩衝作用を有するといわれている.なお,2~4%の頻度でこの柵状血管を介さない巨木型食道静脈瘤 (pipe line varix) があり,左胃静脈からの血流がそのまま食道静脈瘤に流れていくので,血流量が多く注意を要する1)

 胃静脈瘤は食道静脈瘤同様に,胃粘膜下の静脈が瘤状に拡張したものであり,門脈圧亢進症によって生じた門脈―大循環系側副血行路の一部である.胃静脈瘤は,①食道静脈瘤と連続するもの,②食道静脈瘤はあるが胃静脈瘤との連続性がないもの,③食道静脈瘤はなく胃静脈瘤のみが存在するもの,と3つに分類される.①は噴門部小弯に認められ,血行動態的にも左胃静脈をおもな供血路とするものが多く,食道静脈瘤と関連している.②③は孤立性胃静脈瘤であり,おもな供血路は短胃,後胃静脈であり,排出路として高率にGR shuntを合併しており,食道静脈瘤の血行動態とは異なっている.供血路は食道静脈瘤と同様に,左胃,後胃および短胃静脈であるが,Lg–cはおもに左胃静脈,Lg–cf,Lg–fはおもに短胃または後胃静脈から供血されている.孤立性静脈瘤の排出路はほとんどが腎静脈 (GR shunt) へ排血されている2)

〔小原勝敏〕

■文献

  1. 小原勝敏,豊永 純,他:食道・胃静脈瘤内視鏡治療ガイドライン.消化器内視鏡ガイドライン 第3版 (日本消化器内視鏡学会監),医学書院,2006.

  2. 日本門脈圧亢進症学会編:門脈圧亢進症取扱い規約 改訂第3版,金原出版,2013.