ⓔコラム11-8-1 大腸憩室出血の診断,治療の実際

 わが国における大腸憩室保有者は増加傾向にあり,2001~2010年のデータでは23.9%と報告されている1).欧米での保有率60%2)に比べれば少ない.

 下部消化管出血における大腸憩室出血の割合は1995~2006年で5.9%,2007~2013年で23.0%と,有意に増加傾向にある3).

 憩室出血を疑う下部消化管出血患者に対しては,まず血圧,脈拍,意識障害の有無などの血行動態を把握し,必要に応じて輸液,輸血などを実施し安定化をはかる.同時に抗血栓薬や非ステロイド性抗炎症薬 (non–steroidal anti–inflammatory drugs: NSAIDs) などの薬剤内服歴,慢性腎不全,肝硬変,高血圧,糖尿病などの併存疾患,血液検査所見を評価する.必要に応じて,抗血栓薬,特に一次予防目的の低用量アスピリンに関しては出血リスクの観点から,関連医師間で協議のうえ,中止が望ましいとされる4).大腸憩室出血が疑われる症例には,大腸内視鏡検査前に全例にCT検査,腎機能や造影剤過敏などの禁忌がなければ造影CT検査が推奨される4).虚血性腸炎,直腸潰瘍,痔出血,angiodysplasia,大腸癌など大腸出血をきたす疾患との鑑別を要する.

 CT検査で大腸憩室出血が疑われた場合は,出血源の同定や治療介入の目的で24時間以内の大腸内視鏡検査が望ましいとされている4).出血源の同定率は内視鏡早期施行群が有意に高いとの報告がある5,6)

 大腸内視鏡検査において,内視鏡先端フードの装着や,water–jet scopeの使用は,出血憩室の同定率を上げる可能性があり推奨される4).出血責任憩室を同定するためには,活動性の出血のみならず,内視鏡先端フードを装着したスコープで憩室を吸引翻転させ,憩室内のnon–bleeding visible vessel (NBVV) や強固に付着した血餅 (adherent clot) といったstigmata of recent hemorrhage (SRH) の発見が重要である7)

 大腸憩室出血は動脈の破綻による出血が原因であり,内視鏡的止血法にはアドレナリン局注法,凝固法,クリップ法,結紮術 (endoscopic band ligation (EBL),over–the–scope–clip (OTSC)) による止血などが報告されている.凝固法は憩室底部の動脈からの出血の場合,固有筋層を欠く仮性憩室であることから穿孔のリスクが高く推奨されない8).現在わが国では組織傷害性が低く,比較的簡便なクリップ法による止血法が臨床現場で多用されている.直接,出血している血管を把持する直達法と,憩室口を多数のクリップで閉じる縫縮法がある (図11-8-3).縫縮法では再出血率が高いことが報告されており9)直達法が望ましい止血法であるが10),実際に憩室底部の動脈から出血が持続する症例で,憩室底部の動脈をクリップで正確に把持することは困難なことが多い.

 わが国では大腸憩室出血および内痔核を結紮により止血するバンド結紮術 (EBL) の専用EBLデバイス (内視鏡用ループ結紮器) が2018年に医療機器として承認された.EBLデバイスを装着すると視野が狭くなるため,内視鏡観察時に出血責任憩室を発見後,病変の両側にマーキングクリップを留置することが重要である.出血憩室をデバイス内に十分に吸引し,O–ringをリリースし,憩室を結紮する11).バンドの脱落による再出血,腸管穿孔,大腸憩室炎などの偶発症の報告があり注意が必要である.

 内視鏡的治療によっても止血が得られず出血が持続する場合は,動脈塞栓術,外科的大腸切除術を考慮する.造影CTや血管造影で血管外漏出がみられた場合は,まずは動脈塞栓術による止血を試みる (ⓔ図11-8-6).塞栓物質としては金属コイル,NBCA (n–butylcyanoacrylate) を使用するが,成功率は塞栓物質による差は少なく,67~98%と報告されている4,11).術後合併症として腸管虚血による穿孔,腸管狭窄に注意が必要である.動脈塞栓術でも止血が得られない場合は,外科的手術を考慮する.術前に出血部位が同定できている場合は結腸部分切除術を,同定できていない場合には,結腸亜全摘術を施行する.緊急大腸亜全摘術後の死亡率は17%との報告もあり留意が必要である4,12)

〔片岡洋望〕

■文献

  1. Yamamichi N, Shimamoto T, et al: Trend and risk factors of diverticulosis in Japan: age, gender, and lifestyle/metabolic–related factors may cooperatively affect on the colorectal diverticula formation. PLos One, 2015; 10: e0123688.

  2. Peery AF, Barrett PR, et al: A high–fiber diet does not protect against asymptomatic diverticulosis. Gastroenterology, 2012; 142: 266–272.

  3. 藤本一眞:大腸憩室症 (憩室出血・憩室炎) ガイドライン.日本消化管学会雑誌,2017; Supple 1: 1–52.

  4. Sengupta N, Tapper EB, et al: Early versus delayed colonoscopy in hospitalized patients with lower gastrointestinal bleeding: a meta–analysis. J Clin Gastroenterol, 2017; 51: 352–359.

  5. Seth A, Khan MA, et al: Does urgent colonoscopy improve outcomes in the management of lower gastrointestinal bleeding? Am J Med Sci, 2017; 353: 298–306.

  6. Jensen DM, Ohning GV, et al: Natural history of definitive diverticular hemorrhage and colonoscopic Doppler blood flow monitoring for risk stratification and definitive hemostasis. Gastrointest Endosc, 2016; 83: 416–423.

  7. Green BT, Rockey DC, et al: Urgent colonoscopy for evaluation and management of acute lower gastrointestinal hemorrhage: a randomized controlled trial. Am J Gastroenterol, 2005; 100: 2395–2402.

  8. Ishii N, Hirata N, et al: Location in the ascending colon is a predictor of refractory colonic diverticular hemorrhage after endoscopic clipping. Gastrointest Endosc, 2012; 76: 1175–1181.

  9. Jensen DM: Diagnosis and treatment of definitive diverticular hemorrhage (DDH). Am J Gastroenterol, 2018; 113: 1570–1573.

  10. 池谷 敬:大腸憩室出血に対するバンド結紮術 Endoscopic Band Ligation (EBL) のポイント.Gastroenterological Endoscopy, 2018; 60; 1353–1359.

  11. Yi WS, Garg G, et al: Localization and definitive control of lower gastrointestinal bleeding with angiography and embolization. Am Surg, 2013; 79: 375–380.

  12. Plummer JM, Gibson TN, et al: Emergency subtotal colectomy for lower gastrointestinal haemorrhage: over–utilised or under–estimated? Int J Clin Pract, 2009; 63: 865–868.