ⓔコラム13-23-1 さらなる疫学調査

 IL–4欠損動物は自己免疫疾患を発症しやすい1)ことが知られているように,アレルギー性疾患・自己免疫疾患・発癌の発症に関して,それぞれ拮抗している免疫システムが関係している (図1) ことから,それらを標的とした生物学的製剤に関して,長期的な副作用を含めた疫学調査が必要になってくると思われる.

図1 衛生的・都会的環境下と前近代的・農村的環境下における免疫システム・バランス (斎藤博久:BLUE BACKSシリーズ:アレルギーはなぜ起こるか,講談社,2008より作成). 環境中の微生物や腸内細菌叢の多様性が保たれている前近代的・農村的環境下では,免疫バランスを保ちやすい (図左) のに対し,衛生的・都会的環境下では,免疫バランスが乱れやすく,アレルギー性疾患や自己免疫疾患を発症しやすい (図右).

 前述 (本文) の疫学的な観察から得られた衛生仮説に関するメカニズムの説明として,衛生的・都会的環境下では,非衛生的・農村的環境下に比して,2型免疫に拮抗する1型/3型免疫を刺激するエンドトキシンに代表される微生物由来アジュバントへの曝露が不足し,バランスとして,アレルギー疾患を発症しやすい2型免疫,2型サイトカイン優位のアトピー体質になりやすいと想定されている2).また,アレルギー疾患のみならず,20世紀後半には自己免疫疾患も急増したことから制御性T細胞などの制御性免疫システムを刺激するさまざまな抗原・腸内細菌への曝露も減少していると想定されている3).さらに,近年,大規模疫学調査の結果,牧畜農家で育った子どもは急性リンパ球性白血病の罹患率が低いという結果も報告されている4)ことから,1型免疫の発達不全が,アレルギー性疾患のみならず (アレルギー性疾患に比べるとオッズ比は低いものの) 発癌に関しても影響する可能性が示唆される.

〔斎藤博久〕

■文献

  1. Finnegan A, Grusby MJ, et al: IL–4 and IL–12 regulate proteoglycan–induced arthritis through Stat–dependent mechanisms. J Immunol, 2002; 169: 3345–3352.

  2. Braun–Fahrländer C, Riedler J, et al: Environmental exposure to endotoxin and its relation to asthma in school–age children. N Engl J Med, 2002; 347: 869–877.

  3. Bach JF: The hygiene hypothesis in autoimmunity: the role of pathogens and commensals. Nat Rev Immunol, 2018; 18: 105–120.

  4. Orsi L, Magnani C, et al: Living on a farm, contact with farm animals and pets, and childhood acute lymphoblastic leukemia: pooled and meta–analyses from the Childhood Leukemia International Consortium. Cancer Med, 2018; 7: 2665–2681.