ⓔコラム15-14-1 ナトリウム利尿ペプチドの発見の経緯

 ナトリウム利尿ペプチド研究は,心房組織の電子顕微鏡解析にその端を発している.1958年,Kirshらにより,心房組織には内分泌細胞に特徴的に認められる分泌顆粒に類似した心房特殊顆粒 (atrial specific granule) が,電子顕微鏡画像の解析により発見された (図1).しかし,その意義は発見当時不明であった.1979年になり,カナダのDeBoldは,水バランスの変化によりこの顆粒の数が増減することを,さらに心房組織の抽出物を別のラットに静脈内投与すると,急速な利尿,ナトリウム利尿,そして血圧の低下が惹起されることを発見した1).この発見は,まぎれもなく心臓組織中にこれらの生物作用を有する未知の物質が含まれていること,そしてそれはおそらく心房特殊顆粒に貯蔵されていると考えられた.この発見が契機となり,世界中の生化学者が心房組織よりこの未知の因子の精製を試みたが,松尾壽之,寒川賢治が1984年世界で最初に完全なアミノ酸配列を同定し,合成ペプチドでその活性を確認した2).このペプチドはアミノ酸28残基よりα–atrial natriuretic polypeptide (α–心房性ナトリウム利尿ペプチド,atrial natriuretic peptide: ANP) と命名された (現在ではANPと記載されればこのα–ANP (1~28) を意味している).

図1 心房組織の心房特異顆粒 (Jamieson JD, Palade GE, et al: J Cell Biol,1964; 23: 151–172).

〔斎藤能彦〕

■文献

  1. DeBold AJ: Heart atria granularity effects of changes in waterelectrolyte balance. Proc Soc Exp Biol Med, 1979; 161: 508–511.

  2. Kanagawa K, Mtsuo H: Purification and complete amino acid sequence of alpha–human atrial natriuretic polypeptide (alpha-hANP). Biochem Biophys Res Commun, 1984; 118: 131–139.