ⓔコラム15-4-8 甲状腺境界病変

 乳頭状の組織構造を基本とする乳頭癌であるが,核溝や核内細胞質封入体などの核所見の存在が診断基準とされており,濾胞構造のみからなる乳頭癌は濾胞型乳頭癌 (papillary carcinoma, follicular variant: FVPTC) とよばれる.アメリカではFVPTCと診断される症例が乳頭癌の17%を占め,過剰診断の可能性があると考えられていた.2016年,被包化されて浸潤を認めないFVPTCの悪性度がきわめて低い (109例の平均14年の経過観察で再発・転移はなく,死亡例は皆無) ことが示され,乳頭癌様核所見を伴う非浸潤性濾胞型腫瘍 (noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary–like nuclear features: NIFTP) と定義しなおすことが提案された1).これにより世界で年間4万5000人以上の癌診断が修正されると推定され,患者の精神的負担を軽減できるとともに,予後の良い低リスクの腫瘍に対する過剰治療を防ぐことができるとして,2017年改訂の内分泌腫瘍のWHO分類第4版 (WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs. 4th Edition)2)において,「境界病変」の1つとして記述されることになった (表1).

 一方,日本をはじめとするアジア地域ではFVPTCと診断される症例は少なく,乳頭癌の3~6%程度に過ぎない3).その理由としては環境要因のほか,病理医の診断傾向などが考えられる.甲状腺癌取扱い規約第8版4)では,甲状腺境界病変については,付記にとどめ,相当する病理組織型名を示している.

表1 WHO分類第4版における境界病変:被包性濾胞型腫瘍の分類.

〔杉谷 巌〕

■文献

  1. Nikiforov YE, Seethala RR, et al: Nomenclature revision for encapsulated follicular variant of papillary thyroid carcinoma: a paradigm shift to reduce overtreatment of indolent tumors. JAMA Oncol, 2016; 2: 1023–1029.

  2. WHO Classification of Tumours of Endocrine Organs 4th ed (Lloyd RV, Osamura RY, Klöppel G, Rosai J eds), IARC, 2017.

  3. Bychkov A, Hirokawa M, et al. Low rate of noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary–like nuclear features in Asian practice. Thyroid, 2017; 27: 983–984.

  4. 日本内分泌外科学会・日本甲状腺病理学会編:甲状腺癌取扱い規約第8版,金原出版,2019.