ⓔコラム16-3-2 分子量が文献により異なる理由は?

 表16-3-4に示した蛋白質の分子量は,アミノ酸配列から計算して求めた.文献によっては,ここに示した分子量よりも大きな値が記載されている.これは,蛋白質の翻訳後修飾 (高度な糖鎖修飾や脂質化修飾など) も含んだ値であったり,分子量推定法の誤差を含んだ値であったりすることがおもな原因である.例えば,特定の蛋白質を分子量マーカーと一緒にSDS電気泳動で分離し,分子量を推定することはしばしば行われている.この方法では,蛋白質の質量に対する電荷が一定であることが前提条件となっている.そのため,バッファー中でプラスに荷電する塩基性アミノ酸 (ヒスチジンなど) が多い蛋白質 (ヒストンなど) では,移動速度が遅くなり,見かけの分子量が真値よりも大きくなる.

 分子量の単位にkDaを用いている文献が少なくないが,kDaは質量の単位であり,分子量の単位に用いるのは誤用である1).分子量は,その分子を構成するそれぞれの原子の原子量×原子数の総和と定義される.それぞれの原子量は,自然界にある同位体の存在比を考慮して求めた原子の平均質量を,12Cの1/12の質量で割ったもので相対値になっているので,分子量には単位はない.

〔三井田 孝〕

■文献

  1. 吉野健一:意外に知らない分子量と質量の単位の違い.生物工学,2013; 91: 464–468.