ⓔコラム5-16-1 血流から見た脾臓の構造と機能 (ⓔ図5-16-1)

 リンパ節も脾臓も免疫に関係した器官である.リンパ節がリンパ液を濾過する装置であるのに対し,脾臓は血液を濾過する装置であると考え,血流に沿って構造を理解していくと,機能の理解もしやすい.

 脾門部から進入した脾動脈は脾柱に沿って枝分かれして,脾柱の中を進む (脾柱動脈).脾柱動脈は脾柱を出て脾索に進入するが,脾索に入ってすぐの部位で,リンパ球 (T細胞) の集団が動脈周囲を鞘のように取り囲む.このT細胞の集団を動脈周囲リンパ球鞘 (periarteriolar lymphoid sheath: PALS) とよび,PALSで取り囲まれた動脈を中心動脈とよぶ.PALSに隣接してリンパ球が結節状に存在する領域 (リンパ濾胞;脾小節) も存在し,PALSとリンパ濾胞を合わせて白脾髄とよぶ.このリンパ濾胞にはおもにB細胞が存在し,リンパ節のリンパ濾胞と同様に,胚中心を伴うこともある.

 中心動脈は,白脾髄を貫いてすぐに数本の細動脈に分枝する.この細動脈を筆毛動脈とよぶが,その末梢部分は動脈周囲を細網細胞が取り囲んでおり,この部分の細動脈を莢動脈 (さやどうみゃく) とよぶ.莢動脈の多くは脾索に開放性に終わり,莢動脈から脾索に出た血球は脾洞の内皮細胞間隙をすり抜け,脾洞内に移動する.脾洞は脾髄静脈となって脾柱内に進入し脾柱静脈となる.脾柱静脈は脾門部に集まって脾静脈となり,脾臓から流出する.

 本文に記したように,脾臓の機能は,血液濾過,免疫,造血に大別される.血液濾過の機能には,脾洞の構造が密接に関連している.脾洞の壁は1層の内皮細胞によって形成され,正常の赤血球はこの内皮細胞の間隙をすり抜けて,脾索から脾洞へ移動することができる.これは,正常の赤血球が変形能を有しているためで,老化した赤血球や球状赤血球などの異常赤血球は,変形能が低下しているために,脾洞内皮細胞間隙をすり抜けることができない.その結果,脾索に長時間停留する老化・異常赤血球は,脾索内のマクロファージによって処理され,血液中から除去される.また,赤血球が脾洞内皮細胞間隙を通過する際に,赤血球内の異物が絞り出されるように選択的に除去されるという現象も知られており,赤血球のHowell-Jolly小体 (核の遺残物) やHeinz小体 (変性ヘモグロビンの集塊) などの赤血球内封入体は,この機序によって除去される.

 脾臓にはリンパ節と同様にリンパ濾胞 (脾小節) が存在し,血中の抗原を捕捉して免疫応答を起こす機能もある.肺炎球菌やインフルエンザ菌b (Hib),髄膜炎菌は莢膜 (きょうまく) をもっているが,この莢膜のために脾洞の内皮細胞間隙をすり抜けられない.脾索にとどまることになった菌は,脾小節で誘導された抗体によってオプソニン化され,マクロファージによって処理される.脾臓摘出術後には,これらの菌による感染症を起こしやすくなることが知られているが,その理由は,脾摘により上記の機序が働かなくなることによる.

〔須永眞司〕