ⓔコラム5-18-3 有効動脈血液量

 体重の約40%を占める細胞外液は間質液と血管内にある血漿とに分けられる.血漿は体液のおよそ1/12,体重の約5% (60 kg の人では3 L) である.しかし,臨床ではこの血漿の量よりも,血管内の量全体,すなわち血漿量とともに赤血球内などに含まれる細胞内液量の総和である循環血液量の変化を評価することの方が多い.血液量はおよそ6 L であり,これはさらに体動脈内にあるものと,それ以外の静脈,毛細血管,肺血管内にあるものとに分けられる.体動脈内にある血液量は心臓内を含めても全血液量の20% 程度 (60 kg の人では1200 mL) にすぎない.この動脈内にある血液は細胞に酸素などの必須の物質を送り込むため,生きるために重要で,生体はこの量の変化を感知し,その量を調節している.感知するセンサーは腎の輸入細動脈や心臓,頸動脈などに存在し,量そのものよりも圧や伸展刺激を感知している.動脈内にある血液のなかで動静脈シャント分などを除いた,実際に組織を有効に灌流している量は,特別に有効動脈血液量 (effective arterial blood volume) とよばれている.有効動脈血液量は有効循環血漿量や有効動脈血漿量ともよばれる.つまり,有効動脈血液量とは細胞外液のうち,センサーの存在する部位を有効に灌流する循環の量 (圧) を意味する.この量は概念上のもので測定可能なものではない.生体は体液量の変化をこの有効動脈血液量の変化としてとらえて体液量を調節している.

図1 有効動脈血液量の減少する病態.

 通常の状態では,細胞外液量と有効動脈血液量とは正の相関をし,細胞外液量が増えると有効動脈血液量も増加し,細胞外液量が少なくなると有効動脈血液量も減少する.しかし,一部の病態では細胞外液量と有効動脈血液量とはパラレルな関係ではなくなる.有効動脈血液量の減少は細胞外液量の減少や血液量の減少の際ばかりでなく,両者もしくはいずれかが増加している際にも生じることがある (図1).心不全ではおもに静脈系の血液量の増加により細胞外液量は増大しているが,心拍出量の低下により腎灌流圧や頸動脈圧が低下しているため,有効動脈血液量は減少している.このため,生体はこれを感知して,交感神経系やホルモン系を介して,腎でのナトリウム排泄量が低下して細胞外液量を増やす結果となる.肝硬変では内臓血管の拡張,腹水,動静脈シャントの増加,低アルブミン血症により有効動脈血液量が減少する.

〔安田 隆〕