ⓔコラム7-4-2 肺非結核性抗酸菌症の疾患感受性遺伝子

 気管支拡張型・線維空洞型NTM症と全身播種型NTM症では臨床的に明らかに病態が異なり,気管支拡張型・線維空洞型をきたす肺NTM症と播種型NTM症は異なったメカニズムで,疾患が制御されていることが考えられる.ここからは肺NTM症の疾患感受性遺伝子に関する先行研究を概括する.

ヒト白血球抗原

 ヒトの6番染色体の短腕の主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex: MHC) 領域に存在するHLAは自然免疫の制御,獲得免疫におけるT細胞への抗原提示と密接に関連する.そのため,ヒト白血球抗原 (human leukocyte antigen: HLA) 多型はこれまでに結核を含むさまざまな感染症や自己免疫疾患と関連が指摘されてきた.

 わが国ではTakahashiらが,59人の肺MAC症のHLAをタイピングし,一般の日本人データと比較している.その結果,HLA–A33,HLA–DR6の保有者の頻度が有意に高く,ハプロタイプ解析では,A33–B44–DR6が高頻度であった1).また,Kuboらは,日本人肺MAC症64例について,肺MAC症の増悪とHLAのタイピングを解析し,非増悪症例ではHLA–DR6,HLA–DQ4の保有者が多く,増悪症例ではHLA–A26保有者が多いことを示した2)

 一方,韓国からは肺NTM症と関連する (MAC症48例,M.abscessus 症30例) HLAのタイプは明らかではなかっと報告されている3)

 HLAの解析に関しては,近年,HLA imputation法など新たな方法が開発されており,さらに詳細なHLAの解析により,新たな知見が判明する可能性もある4)

natural resistance–associated (NRAMP1)

 Nramp1は元来,マウスのサルモネラ菌,ウシ型結核菌ワクチン (bacillie Calmette–Guérin: BCG) などの細胞内寄生菌感染の感受性を決定する遺伝子として同定され,ヒトではSLC11A1が相同遺伝子として作用している.この遺伝子はマクロファージのイオンのトランスポーターをコードし,細胞内寄生菌の生存に必要な2価金属イオンを排出することにより,殺菌に寄与するとされている.わが国からは,肺MAC症111例を解析し,SLC11A1の3′UTR側に存在する2カ所の多型が5),またSLC11A1の3′UTR領域の一塩基多型とCAAA配列のins/del多型が肺MAC症と関連していることが報告されている6)

MHC class I chain–related A (MICA)

 マイクロサテライトは,ゲノム中に散在する短い配列 (2~4塩基程度) の繰り返し回数 (short tandem repeat: STRP) に基づく多型で,個体識別や集団の構成を解析する指標として用いられる.3万~10万塩基ごとに1カ所変異を認め,ヒトゲノム上には,約10万個存在するとされる.Shojimaらは肺MAC症300例のマイクロサテライト多型の解析を行い,MICA遺伝子内にあるマイクロサテライトマーカーとNTM症との関連が示唆された7)MICAはHLA遺伝子領域にコードされている遺伝子で,ナチュラルキラー細胞 (natural killer cell: NK細胞),γδT細胞,分化抗原群 (cluster of differentiation: CD) 8陽性細胞などに発現するNKG2Dのリガンドで,抗酸菌などの感染により障害を受けると,免疫担当細胞がNKG2Dを介してMICAをリガンドとして認識し,細胞障害活性を発揮することにより病態に関与することが考えられる.

トール様受容体2 (Toll–like receptor: TLR2)

 TLR2はNTMの細胞壁を構成するGPL,PIM,LAM,LMを認識するTLRである.韓国からは肺NTM症193例についてTLR2のintron2に存在するGTリピート多型を解析し,プロモーター活性が低下する遺伝子多型とNTM症の発病が関連することが報告されている8)

Vitamin D

 Vitamin D receptor (VDR) はマクロファージや活性化したリンパ球上に発現しており,Vitamin D の作用により,IFN–γ やIL-12などのサイトカインが抑制されTh1細胞の機能を抑制しTh2優位とする.Tanakaらは111人の肺MAC症患者と177人の健常人を解析し,VDRの遺伝子多型は,疾患群と健常人で有意差はなかったと報告している5)

CFTR (cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)

 CFTRは上皮系細胞のClチャネルとして機能する蛋白をコードするが,欧米人にはその異常により囊胞性線維症が発症する.米国において,Kimらは肺NTM症63例のCFTRの解析を行い,23例で1カ所以上のCFTR変異を有しており,それは一般集団よりも有意に高率であると報告している.しかし変異を有していた例は,補体結合反応 (complex fixation: CF) では認められる汗のClテストは正常であり,CFとは異なる機序で肺NTM症の病態に関与していると考えられる9).わが国ではMaiらが日本人の肺MAC症300例についてCFTRを解析し,ISV8–T5アリルと肺MAC症が関連していることを報告している10)

今後の肺NTM症疾患感受性遺伝子の課題

 わが国・海外でのNTM症の疾患感受性遺伝子に関する先行研究を概説した.MSMDに関してはその病態に関して理解が進んできた.一方,播種型NTM症の病態をとらない肺NTM症の疾患感受性遺伝子に関しては,一塩基多型 (single nucleotide polymorphism: SNP) 解析やマイクロサテライトマーカーを用いた解析が現在まで行われてきていたが,先行研究はいずれも比較的少数例の検討であり,また,その再現性や生物学的意義の検証など今後検討すべき課題を含む.次世代シークエンサーの登場により,網羅的解析技術が急速に進行している現在,さらなる肺NTM症の疾患感受性遺伝子に関する研究が可能となっている.

 肺NTM症はクラリスロマイシン,リファンピシン,エタンブトールを中心とする複数の抗菌薬を数年にわたって内服し,なかには生涯にわたり抗菌薬を内服しなければいけない患者もいる.現行の抗菌薬治療では効果が限定的であり,新規治療薬の開発には抗菌薬以外の治療を含めた新たな視点が必要である.疾患感受性遺伝子として同定された際には,現状の抗菌化学療法だけでなく,宿主因子への介入を図ることで新規治療につながる発展性があり,今後の研究の進展が望まれる.

〔長谷川直樹〕

■文献

  1. Takahashi M, Ishizaka A, et al: Specific HLA in pulmonary MAC infection in a Japanese population. Am J Respir Crit Care Med, 2000; 162: 316–318.

  2. Kubo K, Yamazaki Y, et al: Analysis of HLA antigens in Mycobacterium avium–intracellulare pulmonary infection. Am J Respir Crit Care Med, 2000; 161: 1368–1371.

  3. Um SW, Ki CS, et al: HLA antigens and nontuberculous mycobacterial lung disease in Korean patients. Lung, 2009; 187: 136–140.

  4. Okada Y, Momozawa Y, et al: Construction of a population–specific HLA imputation reference panel and its application to Graves' disease risk in Japanese. Nature Genetics, 2015; 47: 798–802.

  5. Tanaka G, Shojima J, et al: Pulmonary Mycobacterium avium complex infection: association with NRAMP1 polymorphism. Eur Respir J, 2007; 30: 90–96.

  6. Sapkota BR, Hijikata M, et al: Association of SLC11A1 (NRAMP1) polymorphisms with pulmonary Mycobacterium avium complex infection. Hum Immunol, 2012 ; 73: 529–536.

  7. Shojima J, Tanaka G, et al: Identification of MICA as a susceptibility gene for pulmonary Mycobacterium avium complex infection. J Infect Dis, 2009; 199: 1707–1715.

  8. Yim JJ, Kim HJ, et al: Association between microsatellite polymorphisms in intron II of the human Toll–like receptor 2 gene and nontuberculous mycobacterial lung disease in a Korean population. Hum Immunol, 2008; 69: 572–576.

  9. Kim RD, Greenberg DE, et al: Pulmonary nontuberculous mycobacterial disease: prospective study of a distinct preexisting syndrome. Am J Respir Crit Care Med, 2008; 178: 1066–1074.

  10. Mai HN, Hijikata M, et al: Pulmonary Mycobacterium avium complex infection associated with the IVS8–T5 allele of the CFTR gene. Int J Tuber Lung Dis, 2007; 11: 808–813.