ⓔコラム8-2-1 日常の食べ物のなかの炭水化物と脂肪と心血管病の関係

 これまで,心臓のエネルギー基質として,糖質 (=グルコース),脂質 (=長鎖脂肪酸) として単純化して議論してきたが,糖質も脂質も,量だけでなく,質が心血管系の健康維持にとって重要である.

 精製された穀物 (小麦粉や白米) でできた単純炭水化物や,砂糖などの糖類がたっぷり含まれた食品ばかり摂取していると,血糖値は上がりやすく,高インスリン血症を招き,肝臓における脂質生成を促進させるため健康を害する.一方で,糖質を,玄米や雑穀米,野菜,果物,豆などのヘルシーな複合炭水化物を含む食品から摂れば,吸収スピードがおだやかで,食後血糖値は上がりにくく,食物繊維も摂取することができて健康によい.

 総脂質摂取量は,心血管系疾患罹患率や総死亡率に影響しない.どの脂質,どの脂肪酸を摂取するかが重要である.脂肪酸は,エネルギー源となるだけでなく,生体膜リン脂質の構成成分として取り込まれるために,食事として摂取する脂肪酸の種類によって膜の流動性に異なった影響を及ぼし,膜蛋白の機能も変化する.また,個々の脂肪酸からは,特定の代謝経路を介して固有の生理活性脂質 (脂質メディエーター) が合成され,特異的な受容体を介して標的細胞に特有の生理活性作用を示す.炭水化物と比較した場合,飽和脂肪酸は心血管系の健康維持に対してニュートラル,単価不飽和脂肪酸は,特に,エキストラバージンオリーブオイルやミックスナッツとして摂取した場合はすぐれている.多価不飽和脂肪酸は,植物油 (大豆と菜種) に含まれるn–6系多価不飽和脂肪酸のリノール酸や魚油に含まれるn–3系多価不飽和脂肪酸に分けられるが,ともに心血管系の健康維持にとってメリットがある.

〔佐野元昭〕