ⓔノート15-14-4 RAA系におけるANPとBNP

 ANPはわが国で急性心不全の治療薬として広く使用されているが,欧米ではほとんど使用されていない.また,米国ではBNPが急性心不全の治療薬として使用されていたが,無作為試験で,急性期の症状改善には有用であったものの,生命予後を改善する効果が認められなかった.一方,ANPやBNPの分解酵素である,中性エンドペプチダーゼであるneprilysinの阻害薬はその収縮性の低下した心不全に対する予後改善効果が認められ広く臨床応用されている.

 RAA系は,心臓への負荷で活性化するが,血圧を維持し,心収縮力も増加させ,体液貯留の方向に働くので,急性心不全では,血行動態を維持,改善する方向に作用する.また,心筋に働いて心肥大を惹起し,心不全における代償機序の1つである.しかしながら,この代償機序が,長期にわたり過剰に働き続けると,心肥大だけでなく心室の拡張や間質の線維化が進行し,心臓の収縮性や拡張性が阻害され,心不全を増悪させる.つまり,心不全初期ではRAA系は代償機序として有益に働いているが,慢性期には悪循環を形成し心不全を増悪させる.したがって,RAA系の阻害薬はすべて心不全の予後を改善する薬剤として広く使用されている.

〔斎藤能彦〕