ⓔノート16-1-9 繁殖と長寿の関係

 ヒトは進化の過程でほかの生物にはない価値観を獲得した.すなわちほかの生物が「自己の遺伝子の長寿」のみを追求する存在だったのに対して,ヒトのみが「自己の長寿」をも追い求めるようになった.人によっては「自己の遺伝子の長寿」よりも「自己の長寿」を優先する者すら登場するようになり,最適な栄養の考え方も大きく変わろうとしている.「繁殖」と「長寿」はトレードオフの関係にあり,種の繁栄と個の幸福のなかで,いまなお最適な栄養量を検討する研究が続いている.現在のわれわれの手元にある数々の数値が最適であるかどうか,確固たるエビデンスはないのが現状である.価値観が多様化するなか,個々人の幸福を考慮したときに「繁殖」や「健康」,「長寿」を「そこそこ」両立できる栄養素バランスの模索が続いている.

〔窪田直人〕