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情動学シリーズ 9 情動と犯罪 ―共感・愛着の破綻と回復の可能性―
内容紹介
深刻化する社会問題に情動研究の諸科学はどうアプローチするのか。犯罪の防止・抑止への糸口を探る。〔内容〕愛着障害と犯罪/情動制御の破綻と犯罪/共感の障害と犯罪/社会的認知の障害と犯罪/犯罪の治療:情動へのアプローチ
編集部から
○本書について(本書「序文」より) 福井裕輝
「犯罪者は共感性に乏しい」ということがしばしばいわれ,一般的にも受け入れやすい見方であると思われる.犯罪は情動の障害によって引き起こされるというようなことがもっともらしく語られる。法律は,人とは自由であり,その自由意志にしたがって行動するという独特の人間観をもとに構築されている。しかし,「感じる」という情報処理を基礎に生まれる「感情」と異なり,「情動」は身体の生理的活動も含めたいわば無意識的過程である。
犯罪が起きて,人々にとってそれが不可解な現象あるいは理性的な理解を超えたものであるとき,とりわけ責任主体や動機がはっきりしないとき,その「心の闇」を情動の障害と考えると「腑に落ちる」のである。しかし,犯罪と情動の関連はそれほど明確になっているわけではない。そもそも情動とは何なのか,という定義自体も,脳神経科学と心理学の分野では異なった意味で使われることが多い。
情動は,犯罪に関連して至る所に存在する。情動の障害は遺伝子によって引き起こされることがわかっている。それが反社会性パーソナリティ障害などを生み出す。愛着という環境要因によっても障害されうるので,道徳観念の欠如などを生み出しうる。性犯罪やストーキングにつながることもある。犯罪に対して,社会は,応報すなわち過去の犯罪行為への代償として苦痛という形で刑罰を与える。応報感情とは復讐心であり,怒りであり,すなわち情動をその要因としている。その一方で,これまで考えられてきた以上に情動には可塑性・学習性があることがわかり,治療的介入によって改善しうることが徐々に明らかになりつつある。
とはいえ,この分野の研究はまだ始まったばかりである。本書は,医学,心理学,社会学などの専門家によって多面的・学際的に構成されている。本書の刊行が,今後の新たな研究の発展につながることを願っている。
目次
1. 愛着障害と犯罪 [岡田尊司]
1.1 再認識される愛着の重要性
1.2 愛着理論の誕生と発展
1.3 愛着(アタッチメント)とは何か
1.4 愛着障害と反社会性の萌芽
1.5 不安定な愛着と攻撃的行動
1.6 情動および行動のコントロールと愛着の安定性
1.7 共感性の発達と愛着
1.8 虐待を受けた子どもと犯罪
1.9 「誰でもよかった」型犯罪と回避型愛着
1.10 父親との愛着の問題
1.11 家庭内暴力,DVと愛着障害
1.12 依存症にともなう犯罪と愛着障害
1.13 窃盗癖と愛着障害
1.14 性犯罪と愛着障害
1.15 愛着の関与は希望の灯ともなる
2. 情動制御の破綻と犯罪 [齋藤 慧]
2.1 情動システムとは
2.2 情動を生み出す仕組み(視床下部,大脳基底核,扁桃体など)
2.3 情動を制御する仕組み
2.4 情動発現システムの異常と犯罪
2.5 情動制御システムの異常と犯罪
2.6 摂食異常,性欲異常と犯罪
2.7 愛欲と犯罪
3. 共感の障害と犯罪 [増井啓太]
3.1 共感とは何か,冷酷さとは何か
3.2 共感を担うシステム
3.3 情動的応答性と共感
3.4 情動的共感と認知的共感
3.5 情動的共感の障害と犯罪
3.6 認知的共感の障害と犯罪
3.7 愛着障害と共感の未発達
3.8 サイコパシーと共感の障害
3.9 無差別犯罪と共感障害
4. 社会的認知の障害と犯罪 [高岸治人]
4.1 表情の認知障害と犯罪
4.2 社会的認知の発達と養育環境
4.3 社会的認知の発達と遺伝要因
4.4 反社会性パーソナリティ障害と社会的認知の障害
4.5 「心の理論」の異常と犯罪
4.6 危機の認知と犯罪
4.7 情動制御の異常と犯罪
おわりに
5. 犯罪の治療:情動へのアプローチ [玉村あき子]
5.1 考慮すべき点
5.2 アセスメント
5.3 心理的特徴
5.4 心理療法
5.5 選択と責任について
おわりに
執筆者紹介
●編集者
福井裕輝 NPO法人 性犯罪加害者の処遇制度を考える会
一般社団法人 男女問題解決支援センター
岡田尊司 岡田クリニック
●執筆者(執筆順)
岡田尊司 岡田クリニック
齋藤 慧 NPO法人 性犯罪加害者の処遇制度を考える会
増井啓太 追手門学院大学心理学部心理学科
高岸治人 玉川大学大学院脳科学研究科
玉村あき子 NPO法人 性犯罪加害者の処遇制度を考える会