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情動学シリーズ 10 情動と言語・芸術 ―認知・表現の脳内メカニズム―
内容紹介
情動が及ぼす影響と効果について具体的な事例を挙げながら解説。芸術と言語への新しいアプローチを提示。〔内容〕美的判断の脳神経科学的基盤/芸術における色彩と脳の働き/脳機能障害と芸術/音楽を聴く脳・生み出す脳/アプロソディア
編集部から
・実験美学・神経美学などの最新の知見を紹介!
・カラー口絵7ページ
●本書について(本書序文より)
本書は,「情動と言語・芸術」というテーマのもと,全5章から構成されている.第1章から第3章では,視覚芸術に関する心理学的・脳神経科学的知見が論じられている.19世紀後半から芸術や美の知覚的側面を明らかにしようとする研究は実験美学という領域を確立し,さらに20世紀末から芸術や美を脳の働きとして理解しようとする研究は神経美学とよばれるようになってきた.心理学でも脳神経科学でも芸術に対する関心は常に示されてきたが,体系的な理解にはほど遠く,盛んに研究がなされ,知見の蓄積がなされるようになったのはごく最近である.
第l章では,まさに神経美学の最新の動向について,脳機能画像と非侵襲脳刺激法を用いた研究がふんだんに紹介されている.第2章では,色覚から配色の美的認知に至るまで,芸術における色彩認知の脳機能の研究が紹介されている.これらの2章が芸術認知に関する最新の脳機能研究の動向を紹介したものであるのに対して,第3章では脳機能障害における芸術表現に関する知見が論じられている.視覚芸術の認知的側面と表現的側面との両側面とを併せて理解することが,これらの章をもとに可能であると期待したい.
第4章は,音楽の認知と表現に関して,おもに失音楽症や音楽無感症に関する豊富な症例が紹介されている.第3章とともに神経学的研究が中心であり,脳の特定の領域やネットワークが障害を受けることで生じる芸術作品(美術でも音楽でも)の認知と情動との結びつきや乖離,失語症との関係から芸術と言語との神経学的関係についても理解が可能であろう.さらに第5章では,アプロソディアという発話の韻律の障害に関する音声学的・神経学的知見が紹介されている.第1章や第2章で紹介されている視覚芸術の脳画像研究でもそうだが,多くの言語の音律研究ではコミュニケーション場面を前提とした研究が少なく,第5章でのアプロソディア研究は,非言語コミュニケーションの一部として言語の発話のあり方が,コミュニケーションにおいてどのように重要であるかを理解する契機となると期待したい. (川畑秀明)
目次
1. 美的判断の脳神経科学的基盤 石津智大
1.1 はじめに:美の問いと美の脳科学
1.2 美しさの体験に関連する脳活動
1.3 操作脳科学
1.4 非具象的美と脳活動
1.5 まとめ:美の体験は何のために存在するか
2. 芸術における色彩と脳の働き 池田尊司
2.1 色が見えるとはどういうことか
2.2 減法混色と加法混色
2.3 補色と色相環
2.4 色の対比
2.5 カラーセンター(色覚中枢)
2.6 高次の色知覚
2.7 色と情動
2.8 色彩調和:神経美学へのアプローチ
2.9 色彩調和のfMRI実験
2.10 「調和」の再考
3. 脳機能障害と芸術 川畑秀明
3.1 脳機能障害と感性の変化
3.2 脳機能障害と芸術表現
3.3 脳機能障害による創作動機の変化
3.4 緩徐進行性神経病変による芸術表現の変化
3.5 脳機能障害によって現れた芸術家の感覚障害
4. 音楽を聴く脳・生み出す脳:症例から探る音楽の認知と鑑賞のメカニズム 佐藤正之
4.1 失音楽症の定義と分類
4.2 純粋失音楽症
4.3 音楽能力に関連する症状を呈した症例
4.4 先天性失音楽とその問題点
4.5 鑑賞能力の選択的障害:視覚性情動低下症と音楽無感症
5. アプ口ソディア(Aprosodia) 高倉祐樹・大槻美佳
5.1 「プロソディ」とは何か
5.2 左半球損傷による「プロソディの障害」
5.3 右半球損傷による「プロソディの障害」:アプロソディアをめぐって
5.4 その他の「プロソディの障害」を生じる病態
5.5 「プロソディの障害」のコミュニケーションモデル上の位置づけ
5.6 プロソディ処理の脳内機構に関する最近の知見
5.7 「プロソディの障害」の本質とは何か
執筆者紹介
●編 者
川畑秀明 慶應義塾大学文学部人文社会学科・教授
森 悦朗 大阪大学大学院連合小児発達学研究科・寄附講座教授