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内容紹介
魅力ある12の話題を紹介しながら数学の発展してきた道筋をたどり,読者を数学の本流へと導く楽しい数学書。上巻では数と幾何学の話題を紹介。〔内容〕古代の分数/ギリシャ人の贈り物/比と音楽/円環面国/眼が計算してくれる。
編集部から
本書は,Donald C. Benson著『A Smoother Pebble─Mathematical Exploration』(Oxford University Press刊,2003)を上下巻に分けて翻訳したものです。当初一松信先生に翻訳をお願いしたところ,事情によりお引き受けいただけなかったのですが,適任者として柳井浩先生をご紹介いただき,ご承諾をいただいて現在に至るという経緯がありました。
柳井先生は『形の科学百科事典』の編者のお一人でもあり,数学分野のほかにもいろいろと蘊蓄の深い方のようです。一松先生によると,『A Smoother Pebble』は数学的内容そのものに新奇な点はないけれども,話題の扱い方にとても特徴のある本で,内容のほかにも話芸のような部分にまで配慮した訳ができる人でないとこの本の良さが伝わらないとのことでした。そこでご紹介いただいた柳井先生ですが,本当に大変な労力を傾けて翻訳にあたってくださいました。いわく「図書館に通いつめて裏を取っている」「章冒頭の引用文(ゲーテなど)は全部自分で訳した」「用語の使い方が数学畑と哲学畑で違うので,哲学の人に確認を取っている」,ついには「根を詰めすぎて腰を痛めた」......。ときおり進行状況をうかがうにつけ,その力の入れようにはただただ感心するばかりでした。
だいぶ前,浪川先生が数セミで「学生に『フェルマーの定理』の話を知っているかどうかたずねてみたら,驚いたことにほとんどの学生が知らなかった。先生方はもっと授業中に『無駄話』もしてください」といった話を書かれていましたが,『数学へのいざない』はまさにその「無駄話」の結晶のような本です。教科書的な内容を無視して数学を習得することは不可能なわけですが,かといって教科書一辺倒でいいかというと......いけなくはないのかもしれませんが,何か味気ないのも事実。ときには教科書的正攻法を離れて無駄話的に搦め手から攻めるのも必要なのではないでしょうか。この本を手に取った方には,そんな「無駄話」「搦め手」の味を堪能していただきたい。そんなことを願っています。(中川)
【書評】
『数学セミナー 2007年8月号』(日本評論社)の「数セミ・ブックプラザ」欄で、
杉山健一氏により、「・・・この本は,ニュートンのいうところの巨人の肩である。この肩に乗ると,数学の源流がずっと遠くに見渡せる。そういう気持ちを数学を専門としない方々にもぜひ味わっていただきたい。」と、ご紹介いただきました。
【書評】
『数学通信12巻4号(2008年2月号)』の「書評」欄で,
糸川 銚氏により,「・・・非常に面白い本だけに残念だが,この書は若者への啓蒙書としては不向きである。それでは,この本に別な利用価値があるのだろうか? 小数ながら存在する数学好きの社会人には文句なくお勧めできる。また,現役の数学教師たち,数学教員を目指す学部生たちの副読本としても良いかもしれない。一歩進んだ理解を深めるためにも,講義におけるトリビアネタの収拾にも有益だろう。しかし,それにしては微分の解説,グラフの取り方などは無駄な記述である。」と,ご紹介いただきました。
目次
第1部 すき間を埋める
第1章 古代の分数―エジプト・バビロニアの分数―
エジプト式単位分数
エジプト式算術
欲張り算法
バビロニア人と60進法
60進法小数
第2章 ギリシャ人の贈り物―ギリシャ人と比,有理数の〈すき間〉―
異端の論
量と比と比例
方法1.──ユードクソスの比例理論
方法2.──テアイテトスの方法
第3章 比と音楽―ピュタゴラス音律と平均律―
音響学
回転する円
波形とスペクトル
心理音響学
協和音と不協和音
臨界帯域幅
音程,音階,調律
ピュタゴラス音律
5度の繰り返しによるオクターヴの近似
平均律
第2部 ものの形
第4章 円環面国―曲面の曲率と非ユークリッド幾何学―
なめらかな曲線の曲率
曲線に閉じこめられた尺取り虫の世界観
2次元にはめ込まれた曲線
3次元にはめ込まれた曲線
なめらかな曲面の曲率
ガウス曲率──外的定義
円環面国──空想物語
三角形の過剰角
ユークリッド幾何学
平行線公理
非ユークリッド幾何学
非ユークリッド幾何学のモデル
第5章 眼が計算してくれる―グラフ,座標,解析幾何学―
グラフ
グラフの必要性
グラフの“材料”
グラフを考案した賢い人々
座標幾何学
合成と分析・解析
合成的証明と解析的証明
直線
円錐曲線
付録用語集
文 献
索 引
下巻目次
第3部 大いなるわざ
第6章 代数の規則―記号とアルゴリズム―
代数学への不信感/他の方法をもってする算術/代数学と幾何学
第7章 問題の起源―方程式の解法をめぐって―
図式解法/2次方程式/秘密,嫉妬,競争,諍い,そして策略
第8章 対称性は怖くない―群と壁紙模様―
正方形の対称変換/群の公理/平面上の等長変換/平面装飾のパターン
第9章 魔法の鏡―論理学とパラドックス―
決定不可能性/魔法の書き方
第4部 なめらかな小石
第10章 巨人の肩の上から―微積分学誕生前夜―
ニュートン,ライプニッツ以前の積分法/ニュートン,ライプニッツ以前の微分法/ガリレオのリュート
第11章 6分間の微積分学―時計・速度計・走行距離計で学ぶ微積分―
準備/壊れたダッシュボード/ジェットコースター
第12章 ジェットコースターの科学―変分原理と最速降下線―
最も簡単な極値問題/不等式/最速降下線