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女性のライフステージと運動・スポーツ ―変化する身体と心への向き合いかた―
内容紹介
女性のライフステージごとの身体構造・機能の特徴に応じた運動への取り組み方などについて理解を深められる一冊.[内容]女性のスポーツ参加/女性のライフステージごとの身体特性と運動/女性の性機能と運動との関わり/女性アスリート・部活女子の医学的問題/運動における性差:体格,身体組成,体力,運動能力
編集部から
はじめに―女性のライフステージと運動・スポーツとの関わり
ライフステージとは,人間の一生における乳幼児期,児童期,青年期,壮年期,老年期など,人生の変化を節目で区切った,それぞれの段階(ステージ)のことを指します。人の身体はおよそ20年かけて発育・発達し,完成した後,徐々にその機能が衰えていきます。したがって,同一個人であってもライフステージによって身体の構造と機能は大きく変わります。そして,その変化の仕方には明らかな性差があり,産む機能をもつ女性はそれをもたない男性より,一生を通じての身体の変化が大きいといえます。
女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量は年齢によって大きく変わります。10代はエストロゲンの分泌量が上り坂で,その間に初経を迎えます。その後40代前半までのエストロゲン分泌量が最大値を示す時期は妊娠適齢期であり,その後下り坂になって閉経すると,女性ホルモンはほとんど分泌されなくなります。また,月経がある間は,周期的に女性ホルモンの分泌量が変わり,その影響で体調も変化します。
したがって,女性は幼児期から老年期に至るまでの各ステージにおいて,運動への取り組み方は変わりますし,変える必要があります。また,生まれ育った時代の生活環境によっても運動・スポーツへの関わり方は大きく変わります。昭和生まれの子どもは盛んに外遊びをしていましたが,現代の子どもたちの遊び場所は屋外から屋内へと移り,全身を動かす運動遊びより座って行うゲームが中心です。2023(令和5)年度のスポーツ庁の調査結果によると,中学生女子では体育の授業以外に全く運動しない者が2割に達しています。その一方で,さまざまなスポーツ競技において日本人女性のトップアスリートが数多く育っており,その活躍は目覚ましいものがありますが,女性アスリート特有の健康問題も顕在化しています。
本書は,筆者が勤める女子の体育大学において,女子大ならではの特色ある授業科目の一つとして創設された「女性のライフステージと運動」という講義科目の内容をもとに編纂したものです。この新規授業の担当を任されたときは,学問体系が確立されているものでもない,縦にも横にも広がりがあるような漠然とした名称の授業で,一体何を教材として取り上げ,学習させるべきなのか,シラバスを作る段階で頭を抱えてしまいました。年齢によって女性の身体の構造や機能はどう変わるのか,その変化に応じた運動の仕方のポイントと注意点は何かについて解説するには,発育発達学や運動生理学,トレーニング科学の理論が必要ですし,女性ホルモンの働き,月経周期,妊娠・出産のプロセス,女性特有のケガや疾患の話をするには内分泌学や医学の知識が求められます。女性のスポーツ参加の歴史や現状についても話そうとなると,スポーツ史やスポーツ社会学の視点も必要になります。実にさまざまな学問領域にまたがる幅広い内容を網羅しなくてはならず,大変な授業を受け持つことになったと思いました。色々悩んだ末,何とか15回分の授業を組み立て,自信がもてないまま授業を始めたのですが,学期末に実施している学生による授業評価アンケートの自由記述欄には次のようなコメントが書かれていたのです。
・女性とスポーツの関係や今起こっている問題などをたくさん取り上げていて,学ぶことが多かったです。月経についての授業は本当に参考になりました。
・自分の生活に生かせるような内容ですごくためになった。
・女性の身体のことを新しい知識を身につけることができたのでよかった。また,スポーツとも関連して学ぶことができ,私自身これからもスポーツを継続させようと改めて考えるきっかけとなった。
・女性にとって知っておくといいことが学べた。
つまり,この授業は多くの学生が自分に直接関わる内容として興味をもって聴いてくれていたようなのです。コロナ禍で講義系の授業がオンライン形式になったことをきっかけに,現在は一人で全回を担当するのではなく,複数の教員がそれぞれの専門を生かして数回ずつ話題を提供するオムニバス方式のオンデマンド授業として展開しています。
本書は,共に授業を担当してくださっている須永美歌子先生と都筑真先生に加えて,専門性を考慮してより多くの先生方に執筆をお願いしましたので,それぞれの章が充実した構成になっています。女子大学生向けのテキストとして活用していただけることはもちろん,男性も含めて広く一般の方にも読んでいただきたい内容です。
最後に私が本務校のシラバスに書いた「女性のライフステージと運動」の授業の目的とねらいを引用します。
「ライフステージによって変わる女性の身体の構造と機能の特徴を知り,幼児期から老年期に至るまでの各ステージに応じた運動への取り組み方について考える。また,女性の性機能と運動の関わり,女性特有の健康問題と運動との関わり,体力・運動能力の男女差,女性アスリートの健康問題等について理解を深める。そして,一生を通じて女性が運動・スポーツと関わることの意義や価値を考える。」
2026年2月
沢井史穂
目次
第1章 女性のスポーツ参加
1.1 変遷(歴史)[都筑 真]
1.2 女性のスポーツ実施と促進のための取り組み[佐藤 馨]
COLUMN 1 ジェンダー多様性[佐藤 馨]
第2章 女性のライフステージごとの身体特性と運動
2.1 乳幼児期[田中千晶]
2.2 学齢期[田中千晶]
2.3 若年成人期[沢井史穂]
2.4 壮年期[太田めぐみ]
2.5 更年期[沢井史穂]
2.6 老年期[沢井史穂]
第3章 女性の性機能と運動との関わり
3.1 女性ホルモンの働きと月経周期[須永美歌子]
3.2 月経周期と運動[須永美歌子]
COLUMN 2 生理用品の知られざる歴史と進化[沢井史穂]
3.3 妊娠・出産と運動[野村由実]
第4章 女性アスリート・部活女子の医学的問題
4.1 エネルギー不足と無月経[亀本佳世子]
4.2 月経周期に伴う運動パフォーマンスの変化[松田知華]
4.3 スポーツ外傷・障害[舟喜晶子]
COLUMN 3 女性アスリート外来[能瀬さやか]
第5章 運動における性差:体格,身体組成,体力,運動能力
5.1 体格[太田めぐみ]
5.2 身体組成[太田めぐみ]
5.3 体力・運動能力[太田めぐみ]
5.4 筋力・全身持久力[太田めぐみ]
5.5 運動・トレーニングの効果の男女差[太田めぐみ]
COLUMN 4 フェムテックとは? 背景と定義,必要性[江渕 敦]
おわりに:女性のスポーツの将来展望[須永美歌子]

執筆者紹介
■編集者
沢井史穂 日本女子体育大学体育学部 教授
須永美歌子 日本体育大学児童スポーツ教育学部 教授
■執筆者(五十音順)
江渕 敦 一般社団法人J ウエルネス振興会 代表理事
太田めぐみ 中京大学教養教育研究院 教授
亀本佳世子 日本体育大学体育学部 助教
佐藤 馨 びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部 准教授
沢井史穂 日本女子体育大学体育学部 教授
須永美歌子 日本体育大学児童スポーツ教育学部 教授
田中千晶 東京家政学院大学人間栄養学部 教授
都筑 真 日本女子体育大学体育学部 教授
能瀬さやか 独立行政法人日本スポーツ振興センターハイパフォーマンススポーツセンター 契約研究員
野村由実 千葉工業大学創造工学部教育センター 准教授
舟喜晶子 帝京科学大学医療科学部 講師
松田知華 名古屋大学総合保健体育科学センター 助教






















