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世界地名大事典 9 中南アメリカ
内容紹介
メキシコ以南の中央アメリカ,カリブ海地域,南アメリカ大陸の約4400地名を収録。欧文索引を掲載。〔収録国・地域〕アルゼンチン,ウルグアイ,キューバ,コロンビア,ジャマイカ,パナマ,ブラジル,ボリビア,ホンジュラス,他
編集部から
*本シリーズ完結を機に、編者の先生方に各巻それぞれで印象に残った地名の「エッセイ」をいただきました。以下は本巻の松本先生よりです。
●「ヒオ」(リオデジャネイロ):ブラジルの地名表記のスタンダード化に一役
松本栄次
「ヒオはブラジウの前の首都である…」。ブラジル人の発音に近い形で地名を表記すればこのようになる。もちろん、ヒオはリオ、ブラジウはブラジルのことである。ブラジル人は、語頭のRを日本語のハ行に近い音で発音し、母音を伴わないLはウに近い音にするので、こういうことになる。語中のRRもハ行である。ポルトガル本国のポルトガル語は、おおむねローマ字読みで事足りるが、ブラジルのポルトガル語(ブラジル語)には、上に述べたこと以外にもいくつかの「訛り」があって、厄介である。
日本でふつうに使われているブラジル地名は、おそらく、ブラジル人の口からではなく、地図などの活字から導入されたものであろう。その際、ローマ字読みに近いポルトガル本国流の表記が採用されたものと考えられる。Rio Grande do Sul はリオグランデドスルという日本流の表記になり、ブラジル流のヒオグランジドスーにはならなかった。
本事典では、利用者の利便を考え、このような日本でふつうに使われている日本流の表記を基本とした。これでは現地での会話で通用しないので困ると思われる向きがあるかもしれない。しかし筆者の乏しい経験では、これでも何とか通じるものである。ただし、アクセントの置き方を誤らなければという条件が付く。
アクセントはブラジル語の発音において大変重要で、これを誤ると通じないことが多い。このため、本書では、必要と思われる多くの地名について、アクセントのある音節を長音または撥音にしてそれがわかるようにした。ブラジルでは、サンパウロ新聞やニッケイ新聞のような日本語新聞が発行されているが、アクセントの重要性を認識しているこれらのジャーナルでは、地名や人名に長音や撥音を多用している。
現在の日本の地図、書籍、あるいはジャーナルにおけるブラジル地名の表記には、日本流の表記とブラジル流の表記、あるいは、アクセントを意識した表記とこれを無視した表記などが並立し、きわめて雑然とした状況にある。現在、日本語表記でブラジルの地名が最も詳しい地図はおそらくグーグルマップやグーグルアースの日本語版であろう。しかし、その表記には一貫性がなく、上に述べたさまざまな表記がまぜこぜになっていて、「雑然とした状況」のお手本ともいえるは状況になっていることは残念である。
このような状況の中で、日本流表記を基本としつつ、アクセントの表現にも気を配った本事典が、「雑然とした状況」の解消に一役買うことができれば幸甚である。
*注)
グーグルマップの日本語版は2005年ごろから公開された。その作成に当たっては、平凡社地図出版のより地名データの提供を受けている。平凡社地図出版の地図は、アクセントを無視した日本流表記が基本である。平凡社地図出版からの地名データにない地名の仮名化に、グーグル社はブラジル流の表記を採用したらしい。以上のような経過から現在のグーグルマップ(のブラジル)はさまざまな形の表記が混在したものとなっている。
○「東洋学術研究」誌(57巻1号)にて、本シリーズ「中南アメリカ」の執筆者のおひとりである池永啓介先生の「世界地名大事典の執筆に携って」という文章が掲載されました。以下に、一部を加筆訂正のうえご紹介いたします。
「東洋学術研究」サイトはこちら
私は2014年12月に刊行された「中南アメリカ」(約4400項目)の執筆者の一人として、ブラジル関係の地名(約1300項目)の3割程度にあたる約400項目の執筆を担当した。この中には「リオデジャネイロ市」に代表される巨大都市もあれば、「アラグアイア川」や「トードスオスサントス湾」のような自然地名、日本人の移住先として有名なレジストロ、山岳地帯の小さな観光地「モンデヴェルデ」など様々なものが含まれている。場所でいえば北部の「パラ州」、北東部の「バイア州」「ペルナンブコ州」「パライバ州」「セアラ州」、南東部の「サンパウロ州」「リオデジャネイロ州」「ミナスジェライス州」、南部の「パラナ州」、中西部の「ゴイアス州」といったように、ブラジルの大半の地域を手がけることになった。
執筆は東日本大震災直後の2011年5月に開始し、2014年9月までの約3年弱の間、平日は夜の数時間、休日は半日から丸一日をあて、ほほ休む暇もなく継続的に行った。ポルトガル語の資料収集、読解、情報の正確性の吟味、執筆項目の選定と実際の執筆作業、内容の再確認というのが一連の作業過程で、地図や統計にも必ず目を通した。これだけの難しい作業であるから、執筆を引き受けた直後はその大変さに正直後悔した面もあったが、徐々にその面白さに目覚め、全てを終えるまで半ば楽しみながらこの作業を行うことができた。
本シリーズは分厚くかつ高価で、個人で買うにはなかなか難しいが、自治体や大学の図書館にも所蔵されつつあるので、機会があればぜひご覧いただければ幸いである。ブラジルになじみのある人にとってはかつて訪れた地名を再確認できるだろうし、なじみのない人も手に取っていただくことで「まだ見ぬブラジル」への想像力をかきたてられるであろう。必ずや多くの方に喜んでいただけるものと自負している。
目次
執筆者紹介
【総編集】
竹内 啓一
【編集】
山田 睦男
中川 文雄
松本 栄次