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内容紹介
個々の生物種の嗅覚・フェロモンのメカニズムから生態・進化的背景,利用のされ方まで,生物と匂い・フェロモンのかかわりを幅広く取り上げる,各項目4頁の読み切り形式で解説する中項目事典。〔内容〕匂い・フェロモンの定義と役割/嗅覚受容メカニズム/生物各論/匂い・フェロモンの作用/ヒト
編集部から
はじめに
匂いは目に見えないですが,実態はなんでしょうか.皆さんが普段匂いを意識する時は,誰かがおならをした時くらいかもしれません.でも,風邪を引いた時とか,COVID-19に感染した時とか,匂いを感じられなくなると,ご飯が不味くなります.匂いは呼気と共に鼻に入ってくるので,視覚や聴覚のように遮断することができません.常に感じている感覚で,意識にのぼる時は少ないですが,最も身近にある感覚です.
一方,人間以外の動物にとっては,食べ物を探して,天敵から逃れて,生きて子孫を残すために,必須な感覚です.嗅覚がないと,すぐに死んでしまう生物もいます.そして,嗅覚の使い方も生物種によって異なります.匂いが作り出す空間が,環境生態系において,各生物が住まうところを決めています.私たちのかけがえのない地球の生物多様性を維持するためにも,それぞれの生物種の嗅覚の役割や意義を理解することが大切です.
フェロモンという言葉がありますが,フェロモンは匂いなのでしょうか.実は,フェロモンも,匂いと同様に,生物が仲間と共に生きて種を維持するために重要な化学シグナルです.フェロモンも目には見えません.でも,フェロモンは,行動の変化とか,身体の生理状態の変化として,効果が目に見えます.それは抗うこともできず無意識のうちにおきてしまう効果です.
以下のようなことを知りたい人には,ぜひ本事典を読んでほしいと思います.
・匂いって何なのか知りたい.匂いとフェロモンの違いを知りたい
・いろいろな生物の鼻や嗅覚のしくみを知りたい.嗅覚の進化に興味がある
・匂いやフェロモンはどんなことを引き起こすのか知りたい
・匂いは人間にとってどんな役割・意味があるのか知りたい
・人間にフェロモンがあるのか知りたい
・嗅覚の研究を始めたいがどんな手法を使うのか知りたい
・学校で匂いの自由研究をやったが,もっと掘り下げて嗅覚のことを知りたい
本事典を読めば,これらの匂いとフェロモンの疑問に全て答えてくれます.
大林宣彦監督の映画『時をかける少女』では,ラベンダーの香りを嗅いで時空間を彷徨うというシーンがあります.映画が公開された40 年前の当時は,この事象は完全にSF でしたが,嗅覚のメカニズムがわかってきた近年,この香りがもつ力は意外と現実かもしれないと思います.本事典を読むことによって,嗅覚の力を知ることができます.目から鱗的な話も盛りだくさん,皆さんの知的好奇心をくすぐることは間違いないです.それでは不思議な匂いとフェロモンの世界に誘いたいと思います.
2025年5月
編集人を代表して 東原和成
目次
第1章 匂い・フェロモンの定義と役割
1.1 匂 い と は〔東原和成〕
1.2 フェロモンとは〔東原和成〕
1.3 匂い・フェロモンの役割〔東原和成〕
第2章 嗅覚受容メカニズム
2.1 感覚器(鼻腔・嗅上皮)の構造
2.1.1 魚〔宮坂信彦〕
2.1.2 両生類(イモリ,カエル)〔中澤英夫〕
2.1.3 爬虫類(カメ,ヘビ)〔中牟田信明〕
2.1.4 鳥 類〔横須賀 誠〕
2.1.5 哺乳類(齧歯類を中心に)〔守屋敬子〕
2.1.6 霊長類〔新村芳人〕
2.1.7 ヒ ト〔近藤健二〕
2.1.8 昆 虫〔櫻井健志〕
2.1.9 線 虫〔廣木進吾・飯野雄一〕
2.1.10 その他の無脊椎動物1:ナメクジウオ〔窪川かおる〕
2.1.11 その他の無脊椎動物2:棘皮動物〔安田仁奈〕
2.1.12 その他の無脊椎動物3:甲殻類〔石田 寛〕
2.1.13 その他の無脊椎動物4:軟体動物〔池田 譲〕
2.2 受 容 体
2.2.1 哺乳類の嗅覚受容体の構造と機能〔新村芳人〕
2.2.2 脊椎動物の嗅覚受容体の進化〔新村芳人〕
2.2.3 鋤鼻受容体〔二階堂雅人〕
2.2.4 トレースアミン関連受容体(TAAR)〔伊原さよ子〕
2.2.5 その他の受容体:FPR, MS4A, GC〔伊原さよ子〕
2.2.6 昆虫の嗅覚受容体の構造と機能〔森永敏史〕
2.2.7 昆虫の嗅覚受容体の進化〔新村芳人〕
2.2.8 線虫の化学受容体〔廣木進吾・飯野雄一〕
2.3 情報変換機構
2.3.1 脊椎動物〔伊原さよ子〕
2.3.2 昆 虫〔森永敏史〕
2.4 選別の仕組み(感覚神経)
2.4.1 受容体のリガンド応答と組み合わせ論〔福谷洋介・松波宏明〕
2.4.2 一次中枢(嗅球など)への投射〔竹内春樹〕
2.5 嗅覚中枢
2.5.1 嗅 球〔吉原良浩〕
2.5.2 前嗅核〔眞部寛之〕
2.5.3 梨状皮質〔成清公弥〕
2.5.4 嗅結節〔山口正洋〕
2.5.5 扁桃体〔石井健太郎〕
2.5.6 嗅内野〔五十嵐 啓〕
2.5.7 視床下部(嗅覚中枢)〔宮道和成〕
2.5.8 昆虫の嗅覚中枢〔染谷真琴・風間北斗〕
第3章 生物各論
3.1 細菌による環境中の化学物質の感知〔加藤 節〕
3.2 菌類:酵母とフェロモン〔清家泰介〕
3.3 線虫のフェロモンと匂いの生理作用〔武石明佳・藤原 学〕
3.4 昆 虫
3.4.1 ガ,チョウ〔藤井 毅・櫻井健志〕
3.4.2 ハエ,カ〔櫻井健志〕
3.4.3 ハチ,アリ〔北條 賢〕
3.4.4 カメムシ,カイガラムシ〔野下浩二・田端 純〕
3.4.5 コオロギ,バッタ〔青沼仁志・野下浩二〕
3.4.6 ゴキブリ〔勝又綾子〕
3.4.7 シロアリ〔三高雄希・松浦健二〕
3.4.8 コガネムシ,カミキリムシ〔辻井 直〕
3.4.9 ダ ニ〔清水伸泰〕
3.5 魚
3.5.1 ゼブラフィッシュ〔吉原良浩〕
3.5.2 キンギョ〔梶山十和子〕
3.5.3 ヤツメウナギ〔宮坂信彦〕
3.5.4 サケのフェロモンと母川回帰〔山家秀信〕
3.6 両 生 類〔中田友明〕
3.7 爬 虫 類〔岸田拓士〕
3.8 哺 乳 類
3.8.1 マウス(齧歯類)〔村田 健〕
3.8.2 ウサギ〔菊水健史〕
3.8.3 ウシ,ブタ,ウマ,ヤギ〔村田 健〕
3.8.4 ゾ ウ〔新村芳人〕
3.8.5 イ ヌ〔宮崎雅雄〕
3.8.6 ネ コ〔宮崎雅雄〕
3.8.7 イルカ・クジラ〔岸田拓士〕
3.9 ヒト以外の霊長類
3.9.1 サルと匂い〔河村正二〕
3.9.2 サルとフェロモン〔白須未香〕
3.10 植 物
3.10.1 植物-昆虫相互作用〔小野 肇・岡本朋子・森 直樹〕
3.10.2 植物の匂いセンシング〔永嶌鮎美〕
第4章 匂い・フェロモンの作用
4.1 行動への影響
4.1.1 性行動〔菊水健史〕
4.1.2 血縁認知〔菊水健史〕
4.1.3 攻撃行動〔菊水健史〕
4.1.4 群れの縄張りと匂い〔菊水健史〕
4.1.5 母子における匂いの役割〔菊水健史〕
4.1.6 集合行動〔尾﨑まみこ〕
4.1.7 道しるべ(移動)行動〔尾﨑まみこ〕
4.1.8 摂食行動〔小出哲也〕
4.1.9 忌避行動〔小出哲也〕
4.1.10 警報反応〔吉原良浩〕
4.1.11 天敵臭への応答とその分子・神経メカニズム〔小早川 高・小早川令子〕
4.1.12 匂いによる植物の防衛〔塩尻かおり〕
4.1.13 嗅覚記憶〔宮坂信彦〕
4.2 自律神経系への影響
4.2.1 交感神経〔菊水健史〕
4.2.2 副交感神経〔菊水健史〕
4.2.3 認知バイアス〔菊水健史〕
4.3 内分泌への影響
4.3.1 オスフェロモン内分泌〔菊水健史〕
4.3.2 性周期・発情への影響〔菊水健史〕
4.3.3 ストレス内分泌と匂い〔菊水健史〕
第5章 ヒ ト
5.1 ヒトの嗅覚
5.1.1 匂いの脳処理〔岡本雅子・加藤麦彦〕
5.1.2 脳計測手法〔岡本雅子・加藤麦彦〕
5.1.3 匂いの認知・知覚・心理〔綾部早穂〕
5.1.4 嗅覚障害(加齢も含む)〔近藤健二〕
5.1.5 COVID-19と嗅覚障害〔上羽瑠美〕
5.1.6 神経変性疾患と嗅覚〔飯嶋 睦〕
5.1.7 発達障害と嗅覚〔熊﨑博一〕
5.2 ヒトの体臭
5.2.1 体臭源〔白須未香〕
5.2.2 体臭の捕集と分析方法〔平澤佑啓〕
5.2.3 体臭に影響する要因〔平澤佑啓〕
5.2.4 病気と体臭変化〔白須未香〕
5.2.5 体臭を介した社会的相互作用〔岡本雅子〕
5.3 生活における匂いとの関わり
5.3.1 食品の香り〔黒林淑子〕
5.3.2 森の香り,木の香り〔恒次祐子〕
5.3.3 香り文化〔鈴木 隆〕
5.3.4 香りのセラピー効果〔政岡ゆり〕
5.3.5 悪臭,臭気〔光田 恵〕
5.3.6 臭気対策技術,室内の臭気対策〔光田 恵〕
5.3.7 害獣 ,害虫の忌避〔森 直樹・田々美健治・光野秀文〕
5.3.8 嗅覚センサ〔吉川元起〕
事項索引
匂い・フェロモン索引
執筆者紹介
【編集者】
東原和成 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
新村芳人 宮崎大学農学部教授
吉原良浩 理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学獣医学部教授
菊水健史 麻布大学獣医学部教授
岡本雅子 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
【執筆者】(五十音順)
青沼仁志 神戸大学大学院理学研究科
綾部早穂 筑波大学人間系
飯嶋 睦 東京女子医科大学脳神経内科
飯野雄一 東京大学大学院理学系研究科
五十嵐 啓 カリフォルニア大学アーバイン校医学部
池田 譲 琉球大学理学部
石井健太郎 ワシントン大学薬学部
石田 寛 東京農工大学大学院先進学際科学府
伊原さよ子 東京大学大学院農学生命科学研究科
上羽瑠美 東京大学医学部
岡本朋子 岐阜大学応用生物科学部
岡本雅子 東京大学大学院農学生命科学研究科
尾﨑まみこ 神戸大学名誉教授
小野 肇 京都大学大学院農学研究科
風間北斗 理化学研究所脳神経科学研究センター
梶山十和子 東北大学大学院生命科学研究科
勝又綾子 Department of Entomology and Plant Pathology, NC State University
加藤 節 広島大学大学院統合生命科学研究科
加藤麦彦 Neuroscience Institute, New York University Grossman School of Medicine
河村正二 東京大学大学院新領域創成科学研究科
菊水健史 麻布大学獣医学部
岸田拓士 日本大学生物資源科学部
窪川かおる 帝京大学先端総合研究機構
熊崎博一 長崎大学医学部
黒林淑子 長谷川香料株式会社
小出哲也 帝京科学大学生命環境学部
小早川 高 関西医科大学附属生命医学研究所
小早川令子 関西医科大学附属生命医学研究所
近藤健二 東京大学大学院医学系研究科
櫻井健志 東京農業大学農学部
塩尻かおり 龍谷大学農学部
清水伸泰 京都先端科学大学バイオ環境学部
白須未香 東京大学大学院農学生命科学研究科
鈴木 隆 高砂香料工業株式会社IR/広報室
清家泰介 九州工業大学大学院情報工学研究院
染谷真琴 理化学研究所脳神経科学研究センター
武石明佳 神戸大学大学院理学研究科
竹内春樹 東京大学大学院理学系研究科
田々美健治 アース製薬株式会社研究部
田端 純 農業・食品産業技術総合研究機構植物防疫研究部門
辻井 直 農業・食品産業技術総合研究機構植物防疫研究部門
恒次祐子 東京大学大学院農学生命科学研究科
東原和成 東京大学大学院農学生命科学研究科
中澤英夫 慶應義塾大学医学部
永嶌鮎美 東京科学大学生命理工学院
中田友明 日本獣医生命科学大学獣医学部
中牟田信明 岩手大学獣医学部
成清公弥 東邦大学医学部
新村芳人 宮崎大学農学部
二階堂雅人 東京科学大学生命理工学院
野下浩二 秋田県立大学生物資源科学部
平澤佑啓 東京大学大学院農学生命科学研究科
廣木進吾 University of California, San Diego
福谷洋介 東京農工大学大学院工学研究院
藤井 毅 摂南大学農学部
藤原 学 九州大学大学院理学研究院
北條 賢 関西学院大学生命環境学部
政岡ゆり 昭和医科大学医学部
松浦健二 京都大学大学院農学研究科
松波宏明 Duke University
眞部寛之 奈良県立医科大学医学部
三高雄希 名古屋大学大学院生命農学研究科
光田 恵 大同大学建築学部
光野秀文 東京大学先端科学技術研究センター
宮坂信彦 理化学研究所脳神経科学研究センター
宮崎雅雄 岩手大学農学部
宮道和成 理化学研究所生命機能科学研究センター
村田 健 東京大学大学院農学生命科学研究科
森 直樹 京都大学大学院農学研究科
森永敏史 前 東京大学大学院農学生命科学研究科
守屋敬子 公益財団法人 東京都医学総合研究所先端基礎医科学研究分野
安田仁奈 東京大学大学院農学生命科学研究科
山口正洋 高知大学医学部
山家秀信 東京農業大学生物産業学部
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学獣医学部
吉川元起 物質・材料研究機構
吉原良浩 理化学研究所脳神経科学研究センター