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シリーズ〈災害と情報〉 1 災害情報概論
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(監修)/関谷 直也・田中 淳(編)
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(監修)/関谷 直也・田中 淳(編)
定価 3,520 円(本体 3,200 円+税)
A5判/168ページ
刊行日:2026年09月01日
ISBN:978-4-254-16084-0 C3344
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内容紹介
災害における情報を中心としたソフト対策について、これまでの研究知見を体系化し理論をまとめたシリーズの第1巻。〔内容〕コミュニケーションとしての災害情報/防災と防災研究の現在地/「避難学」を確立するための7つの提言/災害情報研究小史/オールハザード・アプローチ/阪神・淡路大震災/首都直下地震 ほか
編集部から
はじめに
約100年前,1923年に発生した,近代日本で最大の災害である関東大震災の18年前,地震学者の今村明恒は,東京では地震が繰り返し発生してきたことを踏まえ,雑誌『太陽』に,近い将来,大地震とそれに伴う延焼火災による大きな被害が発生する可能性があるという論考を発表した.だが,その警鐘は社会に届かず,関東大震災では甚大な被害が生じた.また,関東大震災の犠牲者10万5,000人余には虐殺された「朝鮮人」,社会主義者も含まれる.原因は流言とされることが多い.災害を事前に知って備える,災害後の混乱を防ぐという「予知」,「流言」「コミュニケーション」の研究の問題意識の原点はここにある.
50年前,1976年,東京大学理学部助手(当時)の石橋克彦が「東海地震説」を発表した.その後,大規模地震対策特別措置法が制定され,また予知に関する研究は本格化した.その延長線上で,仮に,地震を予知できるようになった場合,それをどのように社会に伝えるべきか,パニックを起こさないようにするにはどうすればよいかが課題となった.災害時に情報によって人を救うこと,その一つの究極は,災害の予知・予測とその周知だからである.その際,東京大学地震研究所の要請により,東京大学新聞研究所(現・東京大学大学院情報学環)において「災害と情報」研究班の研究がスタートした.その後,意外と人は災害に関して鈍感であり,災害には関心を持たないこと,パニックは起きないこと,人は避難しないことなどが明らかとなっていった.そして,人はなぜ災害に関心を持たないのか,どうすれば情報で人を救うことができるのか,パニックという通念をどう捉え直すべきか,という研究が始まった.ここに「情報」「避難」の研究としての災害情報論の端緒をみることができる.
その後,災害が繰り返され,情報とメディアが高度化する中で,技術的には地震観測網,気象観測網,数値予報,危険度分布(キキクル)などが整備されてきた.また,緊急地震速報,多種・多様な防災気象情報,河川・土砂災害に関する情報,大雨警戒レベルなどが制度化され,それらはL アラートやアプリを通じて即時に伝えられるようになった.こうして,「放送」「通信」を経由する災害情報は,一層,重要性を増している.
そして,阪神・淡路大震災,東日本大震災やさまざまな災害を経て,災害は現実的なものとなり,被害想定も,過去に経験した既往最大を前提とするものから,科学的に想定しうる最大規模を考えるものへと変化した.東海地震対策は南海トラフ巨大地震への対策へと変わった.首都直下地震,大規模水害,富士山噴火,原子力災害や複合災害も現実的な課題として議論されるようになった.
防災や災害情報は,あまりにも生死に直結する分野であるがゆえに,よくもわるくも,政治,行政,メディア,研究者の距離は近く,学術的検討と実践的判断は常に交錯してきた.地震予知,防災気象情報,河川情報,土砂災害に関連する情報,ハザードマップ,災害後の避難生活や避難所に関する問題,事前の啓発などは,学術的な研究や理論構築の成熟を待つことなく,ときに即応的な制度設計や政策の提案が求められてきた.また誰もが当事者となりうるがゆえに,外部からの評価や批判も容易である.そのなかで研究者は,現実の災害対応に関与しつつ,人々や社会の災害への態度が容易には変わらないことに向き合いながら,少しずつ学問としての災害情報論を構築してきている.
以上のような問題意識のもと,第1巻では,防災研究,災害情報研究を先導的に担ってきた方々を中心に,その成立と展開を,過去の災害を踏まえ,理論・歴史・制度・具体的災害の各側面から検討する.
第I部は,防災,災害情報をどう考えるかに関する概説である.田中はコミュニケーション,言語行為論から災害情報について論じる.片田は防災研究を対症療法的な議論から被害軽減を体系化する学理へと転換させることの困難を論じる.矢守は避難に焦点をあて,事後分析や心理主義から脱却すること,無意識下の実践知の重要性を説く.吉井は地震では関東大震災,台風では伊勢湾台風,津波では東日本大震災を「原災害」とし,それらからどのような教訓を導こうとしてきたかという趣旨で災害情報研究の歴史を記述する.福田は,その統合化の方向として,「オールハザード・アプローチ」という方向性を示す.
第II部は,現在の災害対策や災害情報が過去の災害事象をもとに,いかに形成されてきたか,具体的な災害を例に論じられる.室崎は近年の防災対策,災害研究にもっとも大きな影響を与えた「阪神・淡路大震災」について論じる.中林は「首都直下地震」を例に日本の災害対策の基礎である「想定」の問題,安本は「東海地震」「南海トラフ巨大地震」を例に「地震予知」の問題,入江は「新潟地震」を例に放送局を中心としたメディアの役割,丹波は「東日本大震災」と人権について論じる.そして,関谷は,災害を振り返ることそのものの功罪を問い,災害の検証はいかにあるべきかについて論じる.
本巻は,1世紀にわたる問題意識と半世紀に及ぶ研究蓄積を基盤として,災害情報論の系譜を跡づけ,災害と向き合う社会の知を次代へ継承するものである.
2026年8月
関谷直也
目次
第I部 災害と情報をどうとらえるか
1章 コミュニケーションとしての災害情報〔田中 淳〕
1.1 警告か,指示か
1.2 言語行為からみた避難指示の実態
1.3 避難指示はパターナリズムか
1.4 災害情報への展開
2章 防災と防災研究の現在地〔片田敏孝〕
2.1 発散しがちな防災の議論
2.2 防災研究者の使命を考える
2.3 我が国の防災に関する議論の現状
2.4 災害制御可能感を捨て諦観論的防災へ
2.5 行政主体でも住民主体でもない主客未分の中動態的防災へ
2.6 防災に関わる行動変容を促すコミュニケーション・デザイン
3章 「避難学」を確立するための7つの提言〔矢守克也〕
3.1 避難研究は社会科学たりえているか
3.2 提言1:被害事例にだけ注目するのはやめよう─「FACPモデル」と「アンサンブル予測」─
3.3 提言2:情報だけで人を動かそうとするのはやめよう─「避難スイッチ」と「社会的スローダウン」─
3.4 提言3:済んでからとやかく言うのはやめよう─「フォーワード」な視点─
3.5 提言4:最近起こったことに飛びつくのはやめよう─「想定外」より「想定内」─
3.6 提言5:理想だけを追い求めるのはやめよう─「セカンドベスト」─
3.7 提言6:“空振り”と批判するのはやめよう─“空振り”ではなく“素振り”─
3.8 提言7:「××効果」「××バイアス」でわかった気になるのはやめよう─「無意識」の重要性─
4章 災害情報研究小史〔吉井博明〕
4.1 原災害と災害情報研究
4.2 地震・津波のケーススタディから得られた課題・教訓とその後の対策
4.3 台風・集中豪雨のケーススタディから得られた課題・教訓とその後の対応
4.4 災害対策のあり方
5章 オールハザード・アプローチ〔福田 充〕
5.1 進化する危機で求められるオールハザード・アプローチ
5.2 リスク社会の到来とオールハザード・アプローチ
5.3 オールハザード・アプローチと学際的アプローチ
5.4 市民の相対的リスク不安を探る
5.5 危機管理学の4機能モデル
5.6 オールハザード・アプローチによる問題解決に向けて
第II部 過去の災害から学ぶ
6章 阪神・淡路大震災─防災から減災へ─〔室﨑益輝〕
6.1 阪神・淡路大震災とは
6.2 阪神・淡路大震災の被害の概要
6.3 阪神・淡路大震災の復興の概要
6.4 阪神・淡路大震災の被災の教訓
6.5 阪神・淡路大震災の復興の教訓
6.6 今後の課題
7章 首都直下地震─被害想定と東京の事前防災─〔中林一樹〕
7.1 なぜ首都直下地震に備えるのか
7.2 南関東地域を襲う海溝型地震と内陸直下型地震
7.3 関東地震を想定して始動した東京の地震対策
7.4 首都直下地震に備える政府の被害想定と地震対策の展開
7.5 東京都における首都直下地震の被害想定と事前防災対策の成果
7.6 被害想定が証明した東京の首都直下地震対策の成果と教訓
7.7 首都直下地震に学ぶ─事前防災で被害は軽減できる─
8章 東海地震─地震予知の系譜─〔安本真也〕
8.1 『地震予知─現状とその推進計画』の誕生
8.2 東海地震説
8.3 阪神・淡路大震災の影響
8.4 東日本大震災の影響
8.5 南海トラフ地震への対策
9章 新潟地震─放送における災害報道の原型─〔入江さやか〕
9.1 放送による災害報道の変遷─新潟地震以前─
9.2 新潟地震の概要
9.3 放送局はどう動いたか
9.4 放送は避難につながった
9.5 放送における災害報道の原型としての新潟地震
10章 東日本地震─IDPsと広域避難─〔丹波史紀〕
10.1 東日本大震災の被害と避難
10.2 原子力災害に伴う避難
10.3 広域避難と尊厳ある生活保障
10.4 国内避難民(IDPs)問題
11章 災害検証の意義と限界─災害検証は何を明らかにするのか─〔関谷直也〕
11.1 問の所在
11.2 検証の論理
11.3 何を検証するか─目的・内容・方法─
11.4 誰が検証するか─検証の主体─
11.5 検証の不完全性
11.6 「検証」を災害対策に活かす条件─提言─
11.7 結論
索引

執筆者紹介
・監修
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター
・シリーズ編集
田中 淳 東京大学名誉教授
関谷直也 東京大学
秦 康範 日本大学
小林秀行 明治大学
・編集
関谷直也 東京大学
田中 淳 東京大学名誉教授
・執筆者(五十音順)
入江さやか 松本大学
片田敏孝 東京大学
関谷直也 東京大学
田中 淳 東京大学名誉教授
丹波史紀 立命館大学
中林一樹 東京都立大学名誉教授
福田 充 日本大学
室﨑益輝 神戸大学名誉教授
安本真也 東京大学
矢守克也 京都大学
吉井博明 東京経済大学名誉教授



























