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シリーズ〈災害と情報〉 4 防災教育と情報
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(監修)/小林 秀行・秦 康範(編)
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター(監修)/小林 秀行・秦 康範(編)
定価 3,520 円(本体 3,200 円+税)
A5判/160ページ
発売予定日:2026年09月19日
ISBN:978-4-254-16087-1 C3344
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内容紹介
災害における情報を中心としたソフト対策について、これまでの研究知見を体系化し理論をまとめたシリーズの第4巻。〔内容〕ビックデータ/プラットフォーム/AR・VR/ソーシャルメディア/デジタルアーカイブ/防災教育の実践/ダークツーリズム/標準化・訓練・研修/ボランティアと学び・協働/防災教育の理論 他
編集部から
はじめに
本シリーズ「災害と情報」の題目にも冠されている「情報(information)」という言葉は,ラテン語 informareに由来する.この語には「知らせる」だけでなく,「形づくる」「育てる」といった意味が含まれている.情報とは単なるデータや知識ではなく,人びとの認識や行動,さらには社会のあり方そのものを形づくる営みでもある.
災害研究においても,「災害情報」という言葉は広く用いられてきた.しかし,日本の災害情報研究は,避難情報や警報の伝達,メディア利用,リスク・コミュニケーションなど,「いかに情報を共有し,人びとの行動につなげるか」を主たる課題として発展してきた側面が強い.そこでは情報そのものよりも,むしろcommunicationの問題が中心にあったといえる.communicationはラテン語communicoに由来し,この言葉が「共有する」「分かち合う」を意味することを踏まえれば,本シリーズ前3巻で議論されてきたのもまた,災害をめぐるコミュニケーションの問題だった.
これに対して本書『防災教育と情報』は,災害情報をinformationとして,すなわち「人を育てる営み」として捉えようとする点に特徴がある.防災教育とは,災害に関する知識や体験を伝達するだけではない.他者の体験に触れ,自らの生き方や社会との関わり方を問い直しながら,災害と向き合う力を育てる営みでもある.
その際に重要となるのが,「理解できなさ」にどう向き合うかという問題である.災害では,多くの場合,死や喪失を避けて通ることができない.われわれは被害の発生過程や避難行動の失敗を分析し,再発防止策を検討することはできる.しかし,亡くなった人が最期に何を感じていたのか,遺族が大切な人を失った苦しみをどのように抱えていくのか,といったことを本人以外が完全に理解することはできない.
それでもなお,理解できない他者の体験へ接近しようとすることには意味がある.なぜなら,災害によって失われるものは,単なる生命や財産だけではなく,人びとの暮らしや関係性,生(life)のあり方そのものだからである.防災教育では,災害から「助かる」ための知識を学ぶだけでなく,災害によって生じる苦しみや喪失について想像し続ける態度を育てることも重要になる.
もっとも,このような視点は,従来の災害研究において必ずしも中心的ではなかった.近代社会は,科学技術の発展によって災害や感染症の原因を分析し,その被害を低減することを重視してきた.医療分野でいえば,病気の原因を特定し,予防や治療へ結びつける「病因論」的な発想である.こうした考え方は,新型コロナウイルス感染症への対応にもみられたように,被害拡大の抑止に大きく貢献してきた.
一方で,災害や感染症は,単純に被害の総量としては捉えきれない側面をもつ.同じ災害であっても,高齢者,障害者,外国人,子ども,被災自治体職員,ボランティアなど,それぞれが置かれた状況によって体験のあり方は大きく異なる.また,被災後に生活再建の困難や孤立,後遺症,喪失感に苦しむ人びとも少なくない.近年,resilienceやcareといった概念への関心が高まっている背景には,こうした「災害後の生」に目を向ける必要性への認識がある.
体験の個別性に目を向けることへの理解が高まる反面,それをどのように情報という形で実践的な防災・減災へ取り込むのかということには,これまで困難がつきまとったことも事実である.だが,近年における情報技術の発展は,この課題に新たな可能性をもたらしている.SNSやデジタルアーカイブを通じて,個人が体験を記録し,共有し,保存することが可能になった.それはまずcommunicationという意味でたとえば避難行動の支援につながり,またinformationという意味では,従来の災害研究では捉えにくかった個別的な体験や感情を,記録として残し,後世へと継承しうるようになっている.こうした技術は,災害対応や検証,災害体験の継承に直接的な形で資するだけでなく,より広い意味で他者の体験へ接近するための重要な基盤となりつつある.
本書は,このような問題意識のもと,「防災教育」と「情報」の関係を多角的に検討することを目的としている.前半では情報技術の活用や災害アーカイブの可能性を扱い,後半では教育や継承のあり方といった問題を論じる.工学,情報学,社会学,社会心理学,教育学など,多様な分野の論者による議論を通じて,災害(情報)研究の新たな地平を示したい.
災害対策は,単に被害を減らすためだけの取り組みではない.それは,人びとの生をいかに支え,次世代へどのような体験を継承していくのかを問う営みでもある.そして,災害と向き合う力を育てる営みとしての防災教育は,そうした災害対策の実践を担う分野として,今後ますます重要性を高めていくだろう.本書が,防災教育に関する研究の広がりと奥行き,そしてその根底にある「人びとの生を守る」という理念について考える契機となれば幸いである.
2026年9月
小林秀行
目次
第I部 ビッグデータ・ソーシャルメディア・AR
1章 ビッグデータ〔秦 康範〕
1.1 なぜ,ビッグデータが防災に必要とされるのか
1.2 プローブカー情報の活用
1.3 携帯電話による位置情報や人口統計の活用
1.4 ソーシャルメディアを活用した救助の取り組み─2019年東日本台風における長野県の対応事例─
1.5 2024 年能登半島地震を例とした最新の動向
2章 プラットフォーム〔臼田裕一郎〕
2.1 動向①:情報・デジタル政策における防災・プラットフォームの位置づけ
2.2 動向②:防災政策における情報・デジタルプラットフォームの位置づけ
2.3 プラットフォームの具体事例
2.4 今後の展開
3章 AR/VR〔板宮朋基〕
3.1 VR とAR,複合現実,xRの定義
3.2 VR/AR の防災教育への応用
3.3 AR の防災教育分野における実用と評価
3.4 災害の種類とVR/AR体験の適性
3.5 まとめと今後の展望
4章 ソーシャルメディア〔石橋真帆〕
4.1 東日本大震災におけるソーシャルメディア投稿からのSOS
4.2 災害時におけるソーシャルメディアの機能
4.3 情報を授受するメディアとしての利用
4.4 災害を理解するためのデータとしての利用
4.5 救助や援助要請のツールとしての利用
4.6 その他の領域における利用
4.7 今後の災害に向けたソーシャルメディア利用
5章 デジタルアーカイブ〔柴山明寛〕
5.1 デジタルアーカイブとは
5.2 自然災害デジタルアーカイブ
5.3 自然災害デジタルアーカイブの変遷と現状
第II部 教育・文化・伝承
6章 防災教育の実践〔金井昌信〕
6.1 学校における防災教育の現状と課題
6.2 主体性を育む防災教育の必要性
6.3 “主体性”を育む防災教育
6.4 最低レベルの底上げを目指した防災教育実践
6.5 効果的な防災教育の実践に向けて
7章 ダークツーリズム〔井出 明〕
7.1 ダークツーリズムの萌芽
7.2 普及した背景
7.3 自然災害との関係性
7.4 日本におけるダークツーリズムの流入と受容
7.5 日本で普及しなかった経緯
7.6 日本型ダークツーリズムの展開と限界
7.7 世界のダークツーリズム事情
7.8 震災遺構の重要性
7.9 ダークツーリズムの現在と今後
8章 ボランティアと学び・協働〔宮本 匠〕
8.1 ボランティアと現代社会
8.2 日本社会における災害ボランティアの広がりと課題
8.3 東日本大震災以降のボランティア
9章 防災教育の理論〔城下英行〕
9.1 防災教育を問いなおす意義
9.2 日本における防災教育展開の契機
9.3 諸外国における防災教育展開の契機
9.4 防災教育の現状
9.5 なぜ学校の外に出るのか─防災教育における参加型アプローチ─
9.6 双方向と参加型
9.7 災害とは何か
9.8 防災対策・減災対策・災害対策
9.9 防災・減災・災害とその教育
9.10 防災教育に他者性を生かす
10章 災害の継承と教訓〔小林秀行〕
10.1 応答責任から継承と教訓を考える
10.2 継承と教訓
10.3 継承を引き受ける「想起の場」
10.4 まごつくという学びの意義
11章 「災害を語る」意味と効果〔佐藤翔輔〕
11.1 語ることによって災害対応が効果的に行えるのか
11.2 語ることは「残る」のか
11.3 エビデンスに基づく実装
11.4 まとめに代えて─災害が語られることで身につくもの─
索引

執筆者紹介
・監修
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター
・シリーズ編集
田中 淳 東京大学名誉教授
関谷直也 東京大学
秦 康範 日本大学
小林秀行 明治大学
・編集
小林秀行 明治大学
秦 康範 日本大学
・執筆者(五十音順)
石橋真帆 東京大学
板宮朋基 神奈川歯科大学
井出 明 金沢大学
臼田裕一郎 防災科学技術研究所
金井昌信 群馬大学
小林秀行 明治大学
佐藤翔輔 東北大学
柴山明寛 東北大学
城下英行 関西大学
秦 康範 日本大学
宮本 匠 大阪大学



























