疫学・臨床研究のための因果推論 ―Robinsのg-methodsによる現実問題へのアプローチ―

篠崎 智大萩原 康博田栗 正隆松山 裕(著)

篠崎 智大萩原 康博田栗 正隆松山 裕(著)

定価 4,950 円(本体 4,500 円+税)

A5判/280ページ
刊行日:2026年02月01日
ISBN:978-4-254-12312-8 C3041

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内容紹介

医学研究を題材に「現実問題を解決するための因果推論」の理論と実践力が身につく1冊.〔内容〕効果の定義・識別・推定/パラメトリック推測/セミパラメトリック推測/マッチング/操作変数法/ランダム化試験の解析/繰り返し・継続する治療の効果の定義と推定/構造ネストモデル/周辺構造モデル/媒介分析/動的な治療レジメン

編集部から

まえがき

 近年,といっても2000年代以降の約20年間の間に「因果推論」という研究領域が広く認知されるようになり,医学,経済学,工学,社会学,教育学,マーケティングなど,分野を問わず多くの研究者が学ぶようになってきた.統計学の専門教育を受けていない応用研究者にとっては,因果効果を明確に定義し,交絡をはじめとするバイアスの構造を可視化できる「反事実因果モデル」の論理体系は新鮮であり,その理論的な明快さと実践的な切れ味が強い魅力をもって受け止められている.比較的単純なデータであっても,いくつかの基本的手法を組み合わせることで,工夫を凝らした解析から有用な数値を導けることも,学習者に一定の自己効力感を与えているだろう.
 一方で,数理統計学および応用統計学の研究者の間でも,反事実因果モデルが次第に受け入れられるようになってきた.長らく,統計学者は「現実」を表現する統計モデルを構築し,その識別条件を理論的に整理することを主要な課題としてきた.そのような背景のもとでは,「反事実」という観念を出発点に据える因果モデルは,どこか素朴な理論体系として受け取られていたのかもしれない.しかし今日では,反事実因果モデルはむしろ現実の複雑性を体系的に解きほぐすための有効な枠組みとして位置づけられ,理論的にも応用的にも,数理的関心を喚起する対象へと変貌を遂げつつある.
 本書は,これらのいずれにも直接的に与するものではない.まず「因果推論を理解しよう」という入門書でも,「因果推論の手法を使おう」という実践書でもない.このような書籍は,すでに洋書・和書を問わず数多く存在している.一方で,本書は「因果推論の数理」を純粋に深化させることも目的としていない.数学的に厳密な教科書としては,構造的因果モデル理論におけるJudea Pearl,セミパラメトリック推測理論におけるMark van der LaanやJames Robins, Anastasios Tsiatisらの業績が確立している.
 本書の中心的なコンセプトは,「現実の問題を解決するためのデータ解析の方法論としての因果推論の習得」である.本書は単なる解析手法の羅列(いわゆるクックブック) を提供するものではなく,また因果モデルによる統計理論そのものを数学的に深掘りすることを主目的ともしていない.むしろ,現実の研究課題を前にしたときに,因果推論の考え方に基づいてどのように問題を定式化し,どのような推定目標 (estimand) を設定すべきか,どのようなデータから,どのような仮定のもとで,どのように統計的推測が可能となるのかを,可能な限り丁寧に解説する.想定する対象領域は,人を対象とした疫学・臨床研究である.本書では,James Robinsの介入主義的因果モデルに基づくg-methodsを中心に理解するための構成をとっている.g は時間とともに変化する治療の動的・非動的,確定的・確率的なレジメンを含む generalized treatment,およびその効果を推定するための generalized methods としてのg公式,構造ネストモデルのg推定法,周辺構造モデルの逆確率的重み付け推定法を指す.その他,二重にロバストなセミパラメトリック推測,操作変数法を拡張したランダム化試験の解析,直接・間接効果などのテーマも扱う.これらのテーマの意義を実践的な文脈で提示するために,本書ではMEGA StudyまたはOSSI研究会(いずれも付録に詳細を示した) のデータ解析例を原則として各章末に配置した.快くデータ使用を許可していただいた第一三共株式会社および山田浩司先生(溝ノ口整形外科) はじめOSSI研究会の皆様に感謝する.
 想定する読者層は,実務におけるデータ解析者から博士を有する研究者まで幅広いが,因果推論を専門としない統計学・データサイエンスの修士課程の学生でも通読可能な水準を目指した.本書では因果推論に関する予備知識を前提とせず,導入部で基礎概念を丁寧に説明する.数理的な記述は,統計学を専門的に学んだ読者が無理なく理解できる程度とし,Robins and Hernan (Longitudinal Data Analysis, CRC Press, 2009) に示されるレベルの数式展開は省略せずに扱う.一方で,Tsiatis (Semiparametric Theory and Missing Data, Springer, 2006) のような抽象的・幾何的説明には深入りせず,必要に応じて代数的な枠組みで整理する.
 因果推論の手法は統計パッケージによってコモディティ化が進み,学習を始める人にとってのハードルも着実に低くなっている.この流れは,因果推論を自ら
の研究の柱の一つとし,日々の共同研究や教育に活用している私たちにとっても好ましいものである.しかし本書が目指すのは,単に手法の普及だけではない.むしろ「現実の研究課題に対して,因果推論という方法論がいかに思考の道具として機能しうるか」を具体的に示すことにある.因果推論の理論や手法を「使う」ためだけでなく,「考える」ための基盤として位置づけ,その意義と可能性を読者と共有したい.
            2026年1月
            篠崎智大・萩原康博・田栗正隆・松山 裕

目次

■Part I 単回治療・曝露の効果推定
1. 因果効果の定義・識別・推定
 1. 1 反事実因果モデル
 1. 2 効果の定義・識別・推定
 1. 3 交絡がある場合の効果識別
 
2. パラメトリック推測
 2. 1 平均因果効果と回帰
 2. 2 回帰と回帰モデル
 2. 3 回帰モデルのパラメトリック推測
 2. 4 回帰モデルのセミパラメトリック推測
 2. 5 OSSIデータ解析:回帰モデルによる条件付き効果の推定
 
3. 平均因果効果のセミパラメトリック推測
 3. 1 モデルの制約下での層別解析
 3. 2 推定方程式によるセミパラメトリック推測
 3. 3 二重ロバスト推定量
 3. 4 セミパラメトリック因果モデル
 3. 5 OSSI解析:周辺効果の推定
 
4. マッチング
 4. 1 マッチングとは
 4. 2 マッチングによる共変量バランスと因果ダイアグラム
 4. 3 解析の前処理としてのマッチング
 4. 4 重み付け推定量としての傾向スコアマッチング
 
5. 操作変数法
 5. 1 ランダム化試験における治療不遵守の問題
 5. 2 操作変数の定義
 5. 3 操作変数法による治療効果の推定
 5. 4 治療効果推定のための付加的な仮定
 5. 5 付加的な仮定を置かない場合のATEのバウンド
 5. 6 数値例
 5. 7 操作変数法を用いる際の注意点
 5. 8 観察研究における操作変数法の適用事例
 
6. ランダム化試験の解析
 6. 1 ランダム化試験における因果推論と因果治療効果
 6. 2 ベースライン共変量調整
 6. 3 治療不遵守の補正

■Part II 繰り返し治療・曝露の効果推定
7. 繰り返しまたは継続する治療の効果の定義と推定
 7. 1 効果の定義
 7. 2 過去の治療の影響を受ける時間依存性交絡変数
 7. 3 識別仮定と識別
 7. 4 g公式の推定
 7. 5 g-nullパラドクス
 7. 6 MEGA Studyデータの解析
 
8. 構造ネストモデル
 8. 1 構造ネスト平均モデルとg推定
 8. 2 構造ネスト分布モデルとg推定
 8. 3 MEGA Studyデータの解析
 
9. 周辺構造モデル
 9. 1 因果的外生性と統計的外生性
 9. 2 周辺構造モデル
 9. 3 傾向スコアモデルと重み
 
10. 媒介分析
 10. 1 媒介分析の目的と概要
 10. 2 事例紹介
 10. 3 記法と直接・間接効果の定義
 10. 4 識別条件と推定
 10. 5 媒介の程度の評価
 10. 6 異なる効果の分解
 10. 7 介入性直接・間接効果
 10. 8 データ解析事例
 
11. 動的な治療レジメン
 11. 1 治療レジメンの分類
 11. 2 識別仮定
 11. 3 潜在アウトカムの期待値の推定
 11. 4 逐次的な治療の最適化
 11. 5 SMART
 11. 6 MEGA Studyデータの解析

■付録
 Appendix A MEGA Study
 Appendix B OSSI研究会データベース
 Appendix C 傾向スコアを用いた効果推定法
 Appendix D 因果ダイアグラム

索引

執筆者紹介

篠崎智大 東京大学大学院情報学環 (第1~4章, 付録B~D)
萩原康博 東京大学大学院医学系研究科 (第7, 8, 11章)
田栗正隆 東京医科大学医学部 (第5, 10章)
松山 裕 東京大学大学院医学系研究科 (第6, 9章, 付録A)

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